日本の規制は世界的に見ると緩い
では、受精卵の遺伝子を改変することに対して、各国で規制はどうなっているのか。
フランスやドイツでは法的に禁止しているが、アメリカでは連邦予算を使うことを禁止しているだけであって、民間団体からの研究費で実施することまでは規制していない。イギリスは基礎研究に限定し、当局に事前申請して承認された場合のみ実施できる。中国は、研究指針で禁止しているが、法的拘束力はなく、罰則はない。
日本は中国と同じで、指針レベルの規制にとどまっている。厚生労働省の「遺伝子治療等臨床研究に関する指針」第一章第七に「人の生殖細胞又は胚の遺伝的改変をもたらすおそれのある遺伝子治療等臨床研究は、行ってはならない」とある。
しかし、この指針における「遺伝子治療等」は、「遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること」と定義されており(イラストの一番右)、今回のゲノム編集のように「遺伝子を導入せず、一部を変えるだけ」という事態(イラストの真ん中)は想定されていない。
つまり、現行の指針を厳密に解釈するなら、今回の実験は、日本では違反にすらならないことになってしまう。
この「抜け穴」は以前から指摘されており、文部科学省の生命倫理・安全部会は現在、新たな指針を作っている。ゲノム編集で子どもを誕生させることは禁止する一方で、基礎研究では認める方向で調整が進んでいる。ただし、これも法的拘束力はない。