そして郵便局の建物が
トンネルを抜けて、一呼吸置く。前の晩に雨が降ったせいで空気が湿気をおびているが、不思議とじめついた感じはしない。少し歩くと、鮫ヶ浦の入り江が見えてくる。トンネル入り口のうっそうとした深い緑とはうって変わり、黄色と黄緑の紅葉に溶け込むように郵便局が建っていた。
今は使われていない漁港の施設だったと思われる小さなコンクリート造りの小屋が、「鮫ヶ浦水曜日郵便局」だった。この日は水曜日ではないので、もちろん誰もいない。
水曜日郵便局の始まりは5年ほど前。熊本県津奈木町のつなぎ美術館が主体となり、閉校になった小学校を利用した「赤崎水曜日郵便局」がスタートした。校舎の老朽化により2年9カ月で閉局したが、再開を望む声が多く寄せられたため、新たな候補地として旧鮫ヶ浦漁港のこの地が選ばれた。鮫ヶ浦水曜日郵便局には、「その先(未来への希望)を静かに照らす灯台のような存在でありたい」という主催者の想いが込められているという。
東松島市の後援、東松島市鳴瀬郵便局と石巻市石巻郵便局の協力の下、郵便局は運営されてきたが、私が訪れた直後の12月5日で「閉局」となった。メッセージボトルのように水曜日の物語が流れ着く楽しさを失うのは寂しいが、こうした試みがまた形を変えて未来につながっていくはずだ。そんなことを考えながら、鮫ヶ浦の入り江に目を向けると、そこに不思議な光景が広がっていた。
(後編http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54893につづく)