松井知事が万博誘致を言い出したのは、1回目の住民投票で負けた後のことだった。おそらく松井知事の頭の中には、万博と都構想をワンセットにすることで、万博誘致の成功も、それに伴う経済波及効果も都構想の効果の1つだと訴えたいのだろう。実際、大阪府と大阪市は現在、2度目の住民投票の準備を進めている。

 2025年の大阪万博は決定した。松井知事が純粋に大阪経済を活性化させたいのであれば、まずは都構想と万博とは切り離して考えてもらいたい。事実、都構想に反対の自民党と公明党も大阪万博の誘致には前向きなのだ。ここに政局を持ち込んでもらいたくはない。

発想がハコモノ行政の延長線上にありはしないか

 さらにもう一点、疑問に思っている点がある。2025年大阪万博で、本当に経済が発展するのかということだ。経産省は約2兆円の経済効果があると説明しているのだが、果たしてそろばん通りにいくものなのか。会場の建設が始まって海外からも観光客が押し寄せればゼネコン、ホテルなどのサービス業は潤うだろう。ただし、課題はそれが長続きするかどうかだ。単に万博を開催しただけでは一時的な効果はあっても、景気は長続きしない。
 
 今の万博は、昔の万博と違うのだ。1970年の大阪万博は日本の高度成長期にぶつかっていた。日本の経済発展が右肩上がりに続いている中で開かれたものだったから、その勢いを加速させる役目を見事に果たすことができた。

 ところが今の日本経済に当時のような勢いはないし、大阪経済にいたっては地盤沈下が著しい。なるほど、万博は景気のカンフル剤にはなるだろう。多くの観光客も来るだろうし、インバウンドで利益を上げる産業もあるだろう。だが大切なことは、その勢いを長期間にわたって維持する方法ではないのか。

 一方で支出は膨大なものになる。会場整備費だけで約1200億円かかると言われているし、交通網のインフラ整備も必要だ。相当な金が必要になるのだが、大阪府も大阪市も必ずしも金に余裕があるわけではない。もちろん万博の費用は国と自治体、企業の三者で分担するのだが、フランスは効果が見込めないとして立候補を途中で辞退したのだ。不透明な経済効果に目を惑わされて万博に巨額の金を投じて大丈夫なのだろうか。
 
 万博誘致で経済を発展させようという考えは、ひと昔前のハコモノ行政と本質的には変わらない。ハコモノを作れば、確かに建築土木業や設備系の企業は儲かる。しかし、効果はその程度だ。

世界の最も住みやすい都市ランキング ウィーン初首位、大阪3位

ハコモノ行政の失敗で一時は財政破綻寸前に追い込まれた大阪(2018年8月9日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / Toshifumi KITAMURA〔AFPBB News

 かつて大阪は、ハコモノ行政で手痛い失敗を経験している。2005年ごろの大阪市は財政破綻寸前だった。その大きな原因は、大阪湾岸エリアの開発に失敗したからだ。今回の万博の会場となる夢洲も、その負の遺産である。大阪湾岸を埋め立て、大きな土地を作って整備し、企業誘致をすれば、企業も人も集まり、経済発展していくだろう――。こんな思惑が当時の大阪市を支配していたのだが、思ったほど企業は誘致できず、結果は大失敗。多額の借金だけが残ってしまった。

 今回の万博誘致の発想は、このときの発想から抜け切れていないのではないか。それが、また同じ間違いを繰り返すのではないか、と心配する所以である。