彼女自身も分かっているのだ。「2000万元などという法外な値段をつけた物件なんて、一体誰が買うのか」(同)ということを。値段を下げなければ売り抜けられないことは十分に承知している。だが「絶対下げたくはない」という気持ちもあり、葛藤にさいなまれている。
11月15日に国家統計局が発表した「70都市の商品住宅販売価格変動状況」によれば、上海の中古住宅の販売価格は前年同月比で2.6ポイント、前月比で0.2ポイント下落している。もはや値段を下げなければ中古住宅は買い手がつかない状況だ。ちなみに、中国の一級都市の空き家率は22%(全国城市住房市場調査報告、2015年)、上海は18.5%(中国家庭金融調査与研究中心、2014年)だという。
上海の街が暗くなったと思ったのは、無数にそびえる高層マンションのせいだった。空き部屋が増えたため、灯りがともらなくなったのだ。人が住まない投資用マンションは以前からあったが、空き家がここ数年でさらに増えた感は否めない。
出稼ぎ労働者もいなくなった
暗さの原因としてもう1つ思い当たることがあるとすれば、上海に居住する外地人(出稼ぎ労働者)が減ったことである。
冒頭で触れた地下鉄10号線の「上海体育場駅」周辺には、エレベーターのない、6階建ての住宅が集まる「小区」と呼ばれる地区が複数ある。小区でも、以前よりも明らかに空き家が増え、暗くなっていた。
2016年末に上海で不動産価格がジワジワと下がり始めると、不動産オーナーは「これが最後のチャンス」とばかりに入居者を追い出し、売り抜ける準備をした。だが買い手はつかず、家に灯りはともらない。住む人がいないので家賃も入らず、銀行ローンもだんだんと重荷となってくる。
“塩漬け物件”が今後さらに積み増すのだとしたら、上海の街はますます漆黒の闇に沈んでしまうことになる。