データ至上主義が陥る魅力のない野球
「野球はスポーツであり、ゲームでもある。だから、試合に勝つことが両チームの第一目的です。でも、NPBは“プロ”野球ですからね。プロは勝利を目指しながら、ファンに支持されるという面も両立させなければならないと思います」
勝つだけではファンの数は増加しない。それが斎藤さんのプロフェッショナルに対する考え方だ。例えば、選手のタレント性は重要な要素である。
「魅力的な選手、ファンが『見たい』と思う選手。球団側はデータに表れない選手のタレント性も評価すべきだと思います。選手にとってはそのタレント性がプロのプレーヤーとしての一つのツールになると言ってもいい。それがデータを偏重した編成になると、面白みはまったくない。そんなチームになってしまうように思うんです」
たとえば、現在の日本プロ野球界には、右投げ左打ちで俊足巧打タイプの野手が数多く在籍している。いわゆる、バランスの取れた凡打の少ないタイプの打者だ。
「データ的な視点で考えれば、一塁ベースに近く右打者よりアウトになりにくい左打者を揃えるのは理に適っています。勝つためには正しい選択なのかもしれないけれど、そんな同じタイプばかりを集めたチームに魅力がありますか? 投手にも同じことが言えます」
「数字のデータだけで勝利を最優先に判断すれば、オリックスの金子千尋投手のタイプばかりになりますよね」と分析する。
「無駄のないフォーム。同じ腕の振りから速球と多彩な変化球を操る能力。抜群のコントロール。バランスが良くて欠点のない投手です。実際の金子投手の場合は、そのすべての能力が卓越しているので、それこそがタレント、個性であると呼べます。しかし、そういう存在は滅多にいません。でもデータで言えば彼は間違いなくいい。すると、すべての能力で金子投手よりやや劣る金子ジュニアみたいなタイプの投手ばかりになってしまう」
あえて極端な例でそう話してくれた斎藤さん。それは一方で、現状の「データ」の扱われ方が、数字的にいいものを追いかけてしまったり、それを過信してしまうといった、活用に大きな課題があることを示唆している。
「粗削りだけれど、力のあるボールを投げる投手を狙いにいこう。欠点はプロに入ってから修正できる。また、どんな試合展開になってもベンチで声を出し続ける選手が多くいるチームを作ろう。そういう球団があってもいい。そういう個性がファンを引き付ける。それがプロの野球なんだと思います。そうしたデータで表現されない部分を、いかに残していけるか。そしてそこにデータをどうやって活用していくか。コーディネーターのような存在が不可欠ですね」