日本こそが米中冷戦の「正面」
「大国間角逐に打ち勝つ」「協調から対決へ」などの標語によって突入した米中冷戦は、純軍事的にはかつての米ソ冷戦と違って、地上戦力ではなく海洋戦力が主たる対抗戦力となる(もちろん、全ての現代戦はサイバー戦力と宇宙戦力が大きな役割を担っており、海洋戦力も陸上戦力もそれらが弱体では機能しない)。
そのため、南シナ海や東シナ海で接近阻止態勢を固めアメリカ軍を待ち構えている中国軍と対峙するアメリカ軍の海上戦力や航空戦力、それに長射程ミサイル戦力などの海洋戦力にとって、前進拠点を提供してくれる日本やフィリピンなど同盟国の存在は極めて重要である。
米ソ冷戦の時期においても、日本の航空基地や海軍基地は米軍にとって重要な拠点であった。しかしながら、米中冷戦におけるその重要性は、かつての米ソ冷戦の時期の比ではない。なぜならば、米ソ冷戦での「正面」は、あくまでもヨーロッパの地上戦域であり、日本周辺の西太平洋海域は、ソ連の「背面」を牽制するための存在という位置付けだったからだ(もちろん、「背面」や「側面」が重要でないというわけではなく、「正面」のほうがより重要である、という意味である)。
ところが、米中冷戦においては、まさに日本周辺海域こそが「正面」の一角となる。アメリカ軍は日米同盟をフルに活用して、日本に存在する航空施設、港湾施設を軍用機や軍艦の出撃・補給拠点として使用するのである。
それだけではない、中国沿岸海域や空域に接近を企てる米軍艦艇や航空機を撃破するための強力な接近阻止態勢を固めている中国軍に対して、アメリカ軍は海洋戦力に加えて地上部隊による長射程ミサイル攻撃を併用せざるを得ない状況に立ち至っている。すなわち、中国領域や中国軍機それに中国軍艦を攻撃するための対地攻撃長距離巡航ミサイル、弾道ミサイル、地対空ミサイル、地対艦ミサイルなどを日本列島上やフィリピン諸島上に展開させて、中国を威圧する態勢を固める必要に迫られているのだ。
このように米中冷戦の開幕に伴い、日米同盟はアメリカ軍にとっても実質的に必要不可欠な軍事同盟となった。その流れの中で、これまでアメリカの軍事力にすがってきた日本が日中関係を「競争から協調へ」と転換しようというのである。安倍政権にはさぞかしアメリカ側には思いつかないような深慮遠謀があるに違いない。