ただし、米中貿易戦争はアメリカ産業界にとっては好ましい話ではない。したがって、トランプ政権としても何らかの妥協を図る可能性がないわけではない。しかしながら、米中貿易戦争が沈静化したとしても、米中冷戦は、かつての米ソ冷戦のように、どちらかが軍事的に立ちゆかなくなるまで継続する可能性が高い。なんといってもアメリカ産業界の大黒柱は、自動車や個人向け電子機器などの民生部門ではなく、軍需部門である。そしてそれらの巨大資本にとっては、相手がソ連であれ中国であれ冷戦構造の継続は決して悪い話ではないのだ。
いずれにしても、トランプ政権が主導して米中貿易戦争、そして米中冷戦を引き起こしたわけであり、まさに米中関係は「協調から対決へ」と明確に変針した。そのような政策転換を強い言葉を持って明言したのがペンス副大統領の10月4日におけるスピーチであった。
日本は「競争から協調へ」
トランプ政権が「協調から対決へ」という対中姿勢を再確認するのと前後してアメリカ軍もその方向に向かって対中圧力を(若干)強化した。南シナ海では以前から断続的に実施していた「公海航行自由原則維持のための作戦」(FONOP)を加速させるとともに、南シナ海と東シナ海ではB-52爆撃機を中国側に接近させる威嚇飛行を実施した。
もっとも9月下旬に南シナ海で実施したFONOPに対しては、中国海軍側も強硬手段に訴え、あわや米海軍駆逐艦と中国海軍駆逐艦が衝突寸前という事態まで引き起こした。このような中国海軍による反撃に対抗するためペンス副大統領が対中強硬姿勢を示したのである。そして、米海軍はさらに強硬なFONOPを11月に実施するとの計画をメディアに漏らし、10月22日には、アメリカ海軍ミサイル巡洋艦アンティータムとミサイル駆逐艦カーティス・ウィルバーが台湾海峡(台湾を中国大陸から隔てている海峡)を北上した。
当然のことながら中国政府は、米軍艦による台湾海峡航行を中国に対する軍事的脅迫行為かつ台湾問題という中国の内政問題に対する不当な干渉と非難した。それに対してアメリカ海軍は、台湾海峡の航行は公海上を航行しただけであり、何ら中国に非難されるいわれはなく、今後もアメリカ海軍艦艇は台湾海峡を航行するであろう、と応じている。
このように米中関係は経済面のみならず軍事的にも目に見える形で悪化し、まさにトランプ政権が名実ともにスタートさせた「協調から対決へ」という米中関係が現実のものとなった。
その矢先に、中国を訪問した安倍首相によって、日中関係を「競争から協調へ」という方針が打ち出されたのである。中国海洋戦力との最前線に立たされているアメリカ海軍関係者の間から“同盟国”日本に対する不審の念が表明されても、不思議なことではない。