また、ユーザビリティテストをすることで、ほんの些細なことからより使いやすくするヒントまで、さまざまな発見を得ることができる。応募サイトの中で「以下は、応募時にご記入いただく必要はありません」と書かれたフォームもあり、「応募時に記入する必要がない項目が応募フォームにある」という矛盾も、テストをしていれば気づけたのではないだろうか。

良いインターフェースを作るには予算と時間がかかる

「以下は、応募前にご記入いただく必要はありません」と書かれているが・・・。
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 なぜこのような「使いにくい」インターフェースになってしまったのだろうか。当事者でないためにはっきりしたことは分からないが、根本的な問題として、発注の段階で発注者と受注者の双方において、ユーザビリティに関する配慮が欠落していたのではないかと推察される。

「使いやすい」インターフェースを作ることは簡単なことではなく、十分な予算とテストおよび開発期間、さらにユーザビリティ専門家のアサインが不可欠である。仕様書にあるような仕様を最低限満たすようなシステムを実装して終わりではなく、それがいったん出来上がった後に「使いやすく」するために、同じ程度の予算と時間がかかるものと見積もっておく必要がある。

 予算と時間がなければ、いくら現場のエンジニアが努力しても、良いものを作ることは不可能である。単に表から見える欠陥を指摘して、開発したエンジニアを責めても問題は解決しない。そもそもの発注の段階で問題がなかったか、必要な資源を割り当てていたのかを問うことが、再発防止に必要な視点であろう。

ユーザーインターフェースは「機能要件」である

 ユーザーインターフェースデザインの分野では、ユーザビリティすなわち「使いやすさ」は、「あればうれしいがなくてもよい“付加価値”」ではなく、「絶対に満たさなくてはならない“機能要件の1つである”」ということが常識となっている。ユーザーインターフェースが使いにくいために最後まで操作を完了できないユーザーがいる場合には、そのユーザーにとってそのシステムは、必要な機能が欠落している欠陥製品と同じなのである。

 普段、何気なく利用しているスマホアプリやウェブサイトについては、その多くが「問題なく使えている」と思われるが、そのような「問題なく使えている」ことは全然当たり前のことはでなく、そのような「十分な使いやすさ」を実現するために、裏で膨大なコストと時間が費やされているのである。

 当たり前になってしまっている「使いやすさ」であるが、たまにこのオリンピックサイトのような失敗例があると、その重要性と難しさが浮き彫りになる。本騒動が、多くの方々がユーザーインターフェースについて考えるきっかけになれば幸いである。