イギリス南部ソールズベリーの街並み

 イギリスでロシアの元スパイが毒殺未遂の目に遭った。事件の真相を巡ってイギリスとロシアの間で一悶着が起きていたが、このたびイギリスのウェブサイトが容疑者の実名をすっぱ抜いた。ついに明らかになった容疑者の正体とは? 軍事ジャーナリスト、黒井文太郎氏がレポートする。(JBpress)

ロシアの主張が崩れた

 9月26日、イギリスの公開情報検証サイト「べリングキャット」(Bellingcat)が、英国で起きた元ロシア情報部員の毒殺未遂事件の容疑者2人のうち1人の身元を確認するレポートを発表した。ロシア軍情報機関「参謀本部情報総局」(GRU)の大佐だということだった。

 この事件に関しては、「GRUの犯行だ」と発表したイギリス当局に対し、ロシア側が「事実無根」と真っ向否定していたが、そのロシア側の主張が崩れたことになる。

 じつはべリングキャットはこの事件の真相解明を早くから続けており、それに対してロシア当局が否定する攻防戦が続いていたのだが、今回、1人の実名を突き止めたことで、ついに勝負がついたといえるだろう。

当初から濃厚だったロシア情報機関犯行説

 事件は今年(2018年)3月4日に、イギリス南部ソールズベリーで発生した。元GRU大佐のセルゲイ・スクリパリが、実娘とともに毒物を盛られ、重体となったのだ。

 スクリパリはかつて、ロシア情報部員でありながらイギリス情報部の協力者として活動していたところをロシアで摘発され、収監されていたが、米露の情報部員交換で釈放され、イギリスに亡命した人物だった。ロシア情報機関からすれば、まさに「裏切り者」といえる。

 そして、この事件が大きく注目されたのは、使用された毒物が、軍事用の化学兵器だったからだ。「ノビチョク」というその化学兵器は、旧ソ連が開発したきわめて珍しいもので、そうしたことから、事件当初からロシア情報機関犯行説が濃厚だった。