べリングキャットの調査によると、彼は1979年、アムール州生まれ。18歳で特殊部隊員を養成する軍学校に入り、2001年の卒業後、ハバロフスクにあるGRU指揮下の特殊作戦旅団に入隊。チェチェン紛争、ウクライナ紛争にも派遣されている。

 2003年にスルラン・バシロフという偽名を割り当てられていたことも判明した。偽名での活動歴は15年にも及んでいたことになる。

 なお、チェピーガ大佐は2014年12月、プーチン大統領から直接授与される「ロシア連邦英雄」称号を授与されている。この時期のこうした授与であれば、おそらく東ウクライナでの秘密活動に対する評価である可能性が高い。

高度な政治判断だった暗殺作戦

 今回のべリングキャットの調査報告に対し、イギリス当局は本稿執筆時点で特に情報を裏付けるような声明は出していないが、欧米主要メディアは大きく報じている。また、露紙「コメルサント」がチェピーガ大佐の地元を取材し、バシロフと名乗っていた人物がチェピーガ大佐本人であることを確認した。

 今回、ジ・インサイダーというロシア側の協力者がいたことは大きかっただろうが、国際的な大手研究機関や報道機関ではない独立系の公開情報検証サイトが、地道な検証作業でロシアの欺瞞をまたひとつ暴いた。快挙と言っていいだろう。

 ちなみに、べリングキャットは今回、別の元ロシア情報部員にもコンタクトをとってこの情報を伝えたところ、通常、「ロシア連邦英雄」称号を持つ大佐クラスが直接、この種の工作を自ら実行することは特別なことだという。それだけ今回の暗殺作戦は高度な政治判断によるきわめて重要な作戦だったということだろう。