結局、8月1日になって政府が「配車サービスの規制を強化する」と発表したことを受け、タクシー会社は一時的にストを解除した。

日本人観光客おもてなしマニュアル

 これほどまでにスペインの地元住民は、外国人旅行客に疲弊し、嫌悪感を抱くようになってしまっている。その原因は端的に言えば、旅行客の「地元民の迷惑を顧みない態度」にあると思う。「郷に入っては郷に従え」とは言うものの、なかなかそうはいかないのも現実。結局、旅行者は自らの楽しみ・快楽を優先する。もちろんそれも十分理解できる。

 ただスペインに住み慣れた私は、現地であまりにもマナーを守れない外国人旅行客を見るたびに、地元住民の気持ちを気にしてしまう。率直に言わせてもらえば、スペインの法や秩序、習慣を尊重できない旅行者は地元の人たちから嫌われてしまっても仕方ないとさえ思っている。

 もちろん、訪問国に敬意を払える旅行者には、それに見合った待遇が現地の人々から自然と施されるはずだ。お互いに気持ちよく触れ合えれば、これ以上の国際交流はない。最初から外国人旅行者に悪気を持つ人など、そうはいない。その負の感情は、時間とともに作られてしまうのだ。

 そんな中、テレビで興味深いニュースを目にした。

 スペイン東部アラゴン州が今年7月、「日本人観光客おもてなしマニュアル」なる冊子を1万部発行したという。このマニュアル本は、同州の観光業界関係者に配られたもので、今後の日本人観光客へのサービス向上を模索するものだ。

 そこには、「日本人には、中国語のように抑揚のある喋り方をしてはならない」、「空手の仕草を見せてはいけない」、「日本人は、静けさを好む」といったマナーのほか、状況に応じたお辞儀の仕方や箸の持ち方などが示されている。

 早速、私はアラゴン州に足を運び、ホルヘ・マルケタ観光局長に話を聞いた。なぜ、このようなマニュアル本を発行したのかと聞くと、「なるほど」と頷ける答えが返ってきた。

「アラゴン州は、スペインの中でも、あまり知られていない地域です。しかし、洞窟や森林といった自然やグルメにも恵まれ、旅をじっくりと味わいたい人には向いています。日本人は、多くの旅行客と異なり、単純に見たり食べたりするだけでなく、その歴史やプロセスに興味があると思うのです。われわれは、日本人にそれを提供したい。(旅行者の)量だけが重要なのではありません。質こそを大切にしたいのです」

 やや固定観念に縛られた内容のマニュアル本だが、マルケタ観光局長の戦略と目標は間違っていないと思った。確かに、アラゴン州を訪れる外国人の数はスペインの他都市と比べると、圧倒的に少ない。

 しかし、大都市が外国人観光客疲れを見せる惨状を知る私は、たとえ数が少なくても、現地の住民と旅行者がお互いに協力し合い、最高の思い出を残してもらうことが理想的な観光の在り方だと考える。その意味では、「量より質を大切にしたい」というアラゴン州の取り組みは大いに注目に値するだろう。

 観光客増加で、観光業界が発展したり雇用が増加したりすることに反対する者はいないだろう。だが、今の時代、あまりの速さに人間のモラルが追いつかないITビジネスが続々と生まれ、そこで人々の衝突が生まれている。

 外国人観光客が増えること自体に問題はないと思う。新興ビジネスによって倫理を超えた現象が起こるとき、人は反抗精神をむき出しにする。それを避ける方法はあるのか。

 私は、何百年と続いてきた伝統スタイルに急激な変化や刺激を与えないことではないかと思う。多言語・多文化の人々が突然押し寄せてくれば、誰もが対応に困惑するのは当然で、時には、批判や軋轢を恐れず、一定の規制を設けることも正しい判断とは言えないだろうか。