建物の中に入って2階の一般閲覧室へと上がろう。そこにはさらに驚かされる空間が広がる。天井高さが12mもある一室の大空間が、わずか直径30cmの柱で支えられている。柱が細いのは、垂直方向の力を受けるだけだから。水平方向の力は、実は穴あき壁自体が構造になっていて、これを受け持っているのである。
そして空間全体は、壁の小穴から染み出してくるような光で均質に満たされている。近世の物理学では、光を伝えるエーテルという媒質があらゆる空間を満たしていると考えたが、そんな媒質の存在を再び仮定したくなるような空間がここにはある。ぜひとも体験してもらいたい。
光の美術館
八ヶ岳の麓に美術愛好者の楽園として1980年代初めから整備されたのが清春芸術村。敷地の中にはギュスターヴ・エッフェルが設計した集合アトリエや、谷口吉生が設計した美術館などがあるが、その名建築群の中に2011年、加わったのがこの小さな展示施設「光の美術館」だ。
外から見ればただの箱にしか見えない。しかし中に入ると、目をみはらされる。展示室でありながら、そこには人工照明がない。その代わりに、天井には斜めに切り裂いたような天窓が走っている。そこから差し込んだ光は、コンクリート打ち放しの空間の一画を照らし、その領域と形が見ている間に刻々と変化していく。ドラマチックな演出だ。
設計したのは、世界的な知名度を誇る日本人建築家の安藤忠雄。その設計の特徴は、装飾を取り去ったシンプルな幾何学造形をもとに、そこへ最小限の操作を加えることで、最大限の光の効果を生み出すところにある。この建物はそうした傾向を代表する作品だ。