産業連関分析は1926年に旧ソ連出身のレオンチェフという経済学者がその原型を考案した。3年後の1929年、米国発の世界恐慌が発生。恐慌を乗り越えるため、積極的な財政支出(バラまき)を説いた経済学者、ケインズの理論が脚光を浴びた。しかし、60年代半ば以降になると、ケインズの理論は「不況下の経済学だ」として鋭く批判された。産業連関分析の生みの親、レオンチェフも、ケインズの学説は「政治的だ」として距離を置いていた。そんな彼の産業連関分析が、現代の日本では、さも「バラまき」を肯定する理論であるかのように用いられてしまうのだから、皮肉としか言えない。

 確かに、失業者が溢れているような状況では生産余力があるので、お金さえバラまけば、雇用は経済全体でも増え、富は蓄積されるかもしれない。だが、現在の日本では、戦後2番目に長い景気拡大が続いており、失業率は主要国の中で最も低い2.5%前後だ。国内にカネさえバラまけば、経済全体としての雇用が増え、生産量も上がると考えるのは楽観的過ぎるのではないか。

「バラまき」による経済効果に疑問を呈した経済学者としては、フリードマンを挙げることができる。彼は、国内の総供給能力が一定の下では、いたずらに政府支出を増やしても、民間の経済活動を代替してしまう恐れがあることを指摘した。同じ議論は、カジノ誘致の経済効果についても言えるのではないか。 

ただでさえ人手不足の地方都市

 大阪市は夢洲の(IRを含む)湾岸開発が、なんと年間10万人以上の雇用を創出すると試算している(「夢洲まちづくり構想」より)。ただし、大阪市に試算の根拠を問い合わせてみたところ、「情報の提供元である『IR事業者』からは、計算プロセスの非公開を条件に試算を受け取ったため、一切回答できません」という対応を受けた。

 IRで必要とされる職種は、現在の日本で特に不足している職種と見事に被っている。大阪府の直近の有効求人倍率を職種別で見ると、「建築・土木」が6.2倍、「接客・給仕」が3.9倍、「サービスの職業」全体では4.8倍にも上っている(2018年2月分)。

 IRは規模の大きいものでは1万人もの従業員が雇用される。ただでさえ人手不足が深刻な地方都市で、IRによってこれ以上人材を奪われたら、元々あった地域の産業が崩壊してしまう恐れもある。元々あった地場のサービス業はなくなっても、みんなでIRの中で働けば、幸せになれるというのだろうか。