現在の日本は慢性的な人手不足に陥り、雇用が増える余地はそもそも限られている。人材・資材・土地などの有用な資産を、外資のカジノ事業者に奪われてしまう事態、経済学の用語で「クラウドアウト(押し出し)効果」と呼ばれる問題が懸念される。

「おカネ」はよくも悪くも、人や資材を集めてしまう。だが、人材という名の資源は限られている。人々がカジノ産業で汗を流す日本と、 既存の産業分野(農業やものづくり、教育・医療などを含んだサービス)で人々が汗を流す日本、どちらが本当の意味で豊かな地域社会なのか、一度立ち止まって考えてみてほしい。

IR1カ所で年1000億円の国外流出

 ここまで、シンクタンクや業界団体が出した数字だけを見て踊らされることがいかに危険かを見てきた。

 シンクタンクが弾き出したカジノの「経済効果」は、今ある消費と新規の消費がごちゃ混ぜになっていて、疑わしいことこの上ない。8割以上は既に国内で発生している消費を奪うことになると予測される上に、付加価値額は見出しに踊る金額の6割のみだ。さらに、現実に起こりうる経済の「供給面」に与える影響、人材や土地などをIR事業者に奪われてしまう問題については、シンクタンクなどのレポートは何も語ってはいない。

 加えて、IRで上がった巨大な利益が米国・外資系のIR事業者に渡ってしまうことを見逃してはならない。

 仮にシンクタンクが想定するように、日本でのIR運営で1施設あたり年間3000億円ほどの売上を叩き出せたとしよう。シンガポールやラスベガスなどでカジノを運営する「ラスベガスサンズ」の最終利益率(税引き後)は過去5年間の平均で約18%、営業活動から得た資金(キャッシュ)の売上比率は33%ほどに上る。

 IR1カ所での営業活動から年間3000億円の売上を上げると、その33%、つまり1000億円もの資金が毎年、米国のラスベガスサンズへ利益として流れる計算になる。大和総研(産経新聞)が言うように3カ所なら3000億円、雑誌「経済界」などが言うように10カ所建てられたら年間約1兆円の資金が国外へ流出する。