というのは、軍事予算削減が続き、軍艦建造や修理そしてメンテナンスなども“倹約”が続けられてきたため、軍艦建造メーカーでも専門家や熟練労働者などが減少しており、高度な造艦レベルを維持することが困難になっているからである。

 355隻海軍を造り出すには、軍艦を新たに建造するのと平行して、現在就役している274隻の主力戦闘艦、それらの主力戦闘艦以外にも海軍で使われている多数の各種艦艇に対する定期的なメンテナンスや大小にわたる修理なども実施し続けなければならない。

 実際に、全国に4カ所ある「海軍造船所」(実際には軍艦建造は行っておらず、修理とメンテナンスを行っている)や上記のような民間の軍艦建造メーカーの造船所などでのメンテナンスや修理が必要であるにもかかわらず“順番待ち”状態になっている海軍艦艇の数は極めて多い。全ての“順番待ち”状態が解消されるのは2035年になってしまうとも言われている状態である。

 このように、トランプ大統領の言う「大海軍」を建設するための──というよりは建設することを義務化した法律が誕生し、巨額の税金を投入する準備が完了したにもかかわらず、「アメリカの造艦能力の現状では、果たして77隻もの各種軍艦を造り出すことが、それも可及的速やかにできるのか?」という疑問が投げかけられているというのが現状なのだ。

日本にとっては絶好の機会

 少なからぬアメリカ海軍関係者たちからは、「アメリカ企業の利益やアメリカ国内での雇用を確保することは必要だが、それらにこだわっていては355隻海軍が誕生するのは2050年近くになってしまい、アメリカ海軍は東アジア海域から駆逐されているかもしれない。アメリカ国内雇用にはある程度目をつぶっても、日本や韓国それにヨーロッパの造艦能力に頼らざるを得ないのではないだろうか」という意見も聞こえてくる。

 日本政府にとっては、日米同盟を実質的に強化するため、ならびに日本の造艦関連諸産業を中心とした企業にとってのビジネスチャンスを手に入れるため、日本の軍艦建造能力をトランプ政権に売り込む絶好の機会と言えるだろう。