実際に、「SHIP法」を先頭に立って推進したロジャー・ウィッカー上院議員はミシシッピー州選出であり、ミシシッピー州最大の民間雇用主はアメリカ海軍駆逐艦などの建造を請け負っているインガルス造船所である。「SHIP法」によって間違いなくインガルス造船所は今後20年間にわたって駆逐艦などを安定的に建造し続けることになるため、ミシシッピー州の雇用は安定することになり、ウィッカー上院議員はミシシッピー州の英雄となったのだ。

 このほか、やはりアメリカ海軍艦艇の建造に携わっているバス鉄工所(メイン州)、ニューポートニューズ造船所(バージニア州)などはもちろんのこと、軍艦に搭載される各種レーダー装置やミサイルなどのメーカーはアメリカ各地に点在しているため、それらの企業だけでなく多くの州で「SHIP法」が順調に適用され、少なくとも77隻の軍艦が建造され続ける間は雇用が安定することになる。

インガルス造船所とバス鉄工所で建造しているアーレイバーク級駆逐艦(写真:米海軍、以下同)
バス鉄工所が建造したズムウォルト級ミサイル駆逐艦

技術的に前途多難な355隻海軍建設

 インガルス造船所やバス鉄工所それにニューポートニューズ造船所といった軍艦建造メーカーは、最低でも77隻もの各種軍艦の多くを建造することが義務づけられた法律のおかげで、今後30年近くにわたっての軍艦建造が保証され、関連会社を含めた雇用が安定することとなった。

 しかしながら、それらのアメリカ軍艦建造メーカーの数的造艦能力では、連邦議会予算事務局などが指摘しているように、30年近くの年月を要することになってしまう。中国はアメリカの4倍のスピードで軍艦を生み出す造艦力を有する。米国の現在の造艦能力では10年も経ずして中国海軍に太刀打ちできない状況が現実のものとなり、その後はますます劣勢に陥ってしまうことは確実だ。

 軍艦を造り出す速度だけではない。アメリカ海軍の軍艦を生み出してきた造艦メーカーの質的造艦能力にも、疑問符が付せられている。