小児ぜんそくの診察にあたる東京慈恵会医科大学附属第三病院 小児科の勝沼俊雄医師。

 近年の医療の進歩は著しい。例えば十数年前は、肺がんステージⅣの診断を受けると、治療の効果もむなしく数カ月で亡くなる方が多かったが、今は複数の薬剤開発により、数年単位で予後が延長、改善されてきている。

 こうした医療の進歩には臨床研究が欠かせないが、臨床研究には多くの時間と資金が必要であり、公費による研究の場合は期限があるため、資金不足により研究が完遂できずに打ち切りとなる事例もあるという。

打ち切られた公的研究費

 東京慈恵会医科大学附属第三病院 小児科の勝沼俊雄医師は、2014年から3年間取り組んできた臨床研究を続けるかどうか頭を悩ませていた。公的研究費の助成期間では十分な症例数の登録に至らず、結果を出せないまま研究費が打ち切りとなった。

 研究内容は、小児ぜんそくの治療薬であるステロイドの吸入を、毎日ではなく、風邪をひいた時や環境が変わる時だけ「間欠吸入(かんけつきゅうにゅう)」することでも効果は変わらないことを証明するもの。

 ぜんそくの罹患(りかん)率は小児・成人とも全体の約5%で、ぜんそくと向き合う子どもは、推定およそ100万人いると言われている。「最小の薬で最大の効果を得る」ことは、患児にとっても保護者にとっても負担が減るとともに、国民全体の医療費の観点からもメリットがある。だが、薬を減らせることを証明する研究のため、製薬企業からの支援を得るのは難しい。

 当初の計画どおりには症例が集まらなかったが、すでに82名の子どもたちが研究に参加してくれている。あと数年あれば結果を出せるが、研究を完遂するためには、数千万円という資金が必要であり、単独で資金調達を試みても、限られた個人や企業にしかアプローチができず、自前ではとても調達できる金額ではなかった。