階段状になった講義室の教壇近くの一角に席を取ると大きく深呼吸をした。緊張と不安に押しつぶされそうになるのをコントロールするのが精一杯だった。(前回はこちら)
あたりを見回すと、ネイティブのフランス語を話す肌の色の白いフランス人ばかりがぐるっと私を取り囲んでいる。
暫くすると教壇に学部長が挨拶に立った。エノログ協会(L’Union de oenologues)の代表から激励の言葉が続き、オリエンテーションが一通り終わるといよいよ大学生活がスタートした。
講義と自宅での勉強に明け暮れたフランス生活
ざわめいていた室内がピタリと静まり返り、ペンを走らせる音と定規の金属音が交差する空間に変わっていく。教授の声だけが無機質な時間を埋めるかのように響き渡っている。私の心に残る大学の原風景、それはこんな感じだ。
フランス生活の大半は、大学の講義(または研修)に出ているか、自宅で勉強しているかのどちらかだった。
まるで験(げん)を担ぐアスリートででもあるかのように、とても規則正しい日々を送っていた。変化のない生活ゆえ、D.N.O.時代の大学での写真は数枚残る程度だ。
会社員が職場で写真を撮らないのに似ているかもしれない。
楽しみは2時間をたっぷり使うランチタイム
講義は朝9時から17時まで月曜から金曜の毎日6時間びっちりスケジューリングされている。授業が終わっても、週に2~3回は学生たちで自主的にテーマを決めて研究会を開くので、寮に着く頃は19時を回る。
寮での夕食を済ませると15分ほど仮眠をしてから机に向かい、日付が変わらないうちに眠りにつく。
休日は、掃除・洗濯とスーパーへ食料の買い出しがメニューに加わる程度で、あとは寮の中庭に面した机で木漏れ日をいっぱいに受けながら勉強しているのが、大学にいるのと違うくらいだった。
そんな毎日でも楽しみはあった。ランチタイムに友人たちと過ごす時間だ。フランスらしくランチは2時間たっぷりとかけて取る。