「眠れてないときほど腹が減る」の根拠はどこに?

睡眠不足と食欲の関係を探る(前篇)

2017.11.10(Fri)漆原 次郎
有竹清夏(ありたけ・さやか)氏。博士(保健学)。埼玉県立大学保健医療福祉学部健康開発学科検査技術科学専攻准教授。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所で研究員・技師、また国立保健医療科学院/長寿科学振興財団でリサーチレジデントを務めたあと、日本学術振興会特別研究員となりハーバード大学医学大学院に留学。帰国後、早稲田大学スポーツ科学学術院助教、東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター特任助教を経て、2017年7月より現職に。専門分野は臨床生理学、睡眠学、時間生物学。

有竹清夏氏(以下、敬称略) 私も含めて多くの研究者が参考にしてきたものとして、シカゴ大学教授のイヴ・ヴァン・コーター博士とカリーン・シュピーゲル博士(現リヨン大学教授)が行った、睡眠不足が代謝と内分泌の機能に与える影響についての実験の報告があります。1999年に発表されたその論文では、睡眠時間が短くなると耐糖能の低下、つまり体が糖を処理する機能が低下することなどが述べられています。睡眠時間が短いことで血糖値が下がりにくくなり、糖尿病などのリスクを高めることが示唆されたわけです。

 シュピーゲルやヴァン・コーターたちのチームは2004年、睡眠時間とホルモン分泌の関係についても発表しました。睡眠不足になると、食欲を抑制する「レプチン」というホルモンの分泌量が減り、逆に食欲を促進する「グレリン」というホルモンの分泌量が増えると述べています。ホルモンのレベルだけでなく、睡眠不足は被験者の主観的な空腹感をもたらすともしています。

 さらに彼らは別の研究で、被験者の就寝時間を4時間、8時間、12時間に分けて実験を行い、睡眠時間が短いほどレプチンの分泌量が少ないことも示しました。食欲を抑制するホルモンの分泌が減るため、食欲が増進してしまうと考察しています。

――地域住民を対象にした疫学研究でも睡眠不足と食欲の関係は調べられているのでしょうか?

有竹 はい。スタンフォード大学のシャーラッド・タヘリ博士(現コーネル大学教授)たちが2004年に、「ウィスコンシン睡眠コホート研究」という疫学的研究による成果を発表しています。この研究は米国ウィスコンシン州の住民2917人を対象としたもので、睡眠時間と肥満度を数値化するボディマス指数(BMI)の関係などが分析されています。

 一般的に睡眠時間が7時間から7.5時間程度だと、うつ病のリスクが低いことなどが知られていますが、肥満リスクについても似たような結果になっています。夜の睡眠時間が7.7時間の場合にBMIが最も低くなっていて、睡眠時間が短くなるとBMIが高くなり、逆に睡眠時間が長くなってもBMIは高くなったといいます。睡眠時間を横軸、BMIを縦軸とすると、7.7時間を底とする「U」の字が描かれたわけです。

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