今年も富士総合火力演習が実施された。昨年、筆者は、元米海兵隊大佐のグラント・ニューシャム氏が富士総合火力演習を「歌舞伎ショー」と批判する論説を紹介した(「こけおどしのショー『総火演』はやっても無意味」)。今年、約10年ぶりに2日間見に行ったが、はっきり言ってまさしく中身のない「歌舞伎ショー」であった。走る棺桶というべき水陸両用車「AAV7」が登場するなど、そのひどさに磨きがかかっている。
以下では、今年の総火演が露呈した問題点について述べよう。
何の訓練にもならず、疲弊するだけ
第1の問題は、総火演のような「動かない敵を一方的に叩きのめす」イベントが、一般市民に過剰な期待感を持たせることである。
総火演を見て感激するか疑問を持つかで、プロとアマチュアかがよく分かるという言葉がある。残念ながら、総火演を見た多くの人は感動して、自衛隊は精強だ、問題は政治家や憲法だと誤解してしまうだろう。
しかし現在、多くの自衛隊幹部が危惧しているのが、自衛隊の“東京電力”化である。要するに、原発事故前の東京電力は非常に評価が高い組織であった。しかし、福島原発の事故後は評価が地に落ち、日本で最も批判される企業となってしまった。
同様に、現在の自衛隊の評価は年々高まるばかりである(それこそ、総火演のチケットの倍率が年々高まることが証明するように)。一方、実際の戦闘能力は危惧されている。実際の戦争になった際、災害派遣のようには上手くいかない可能性が高く、東電と同様に強い失望を受ける公算が高い。