一時は盤石にみえ、史上最長内閣も視野に入ったかと思われた安倍政権は、ここに来て急に雲行きがあやしくなった。加計学園問題への対応を誤って東京都議会選挙で惨敗したことをきっかけに、内閣支持率が30%前後まで急落した。
安倍首相の外交・防衛政策についての評価は高いが、アベノミクスが空振りに終わったことへの批判は強い。自民党内では40人の国会議員が集まって「脱アベノミクス勉強会」が発足したが、今のところアベノミクスに代わる経済政策は打ち出せない。そこで「ポスト安倍」の経済政策を考えてみよう。
財政政策の「ネズミ講」は可能か
最近、拙著『アベノミクスの幻想: 日本経済に「魔法の杖」はない』(東洋経済新報社)が、政治家や議員秘書に読まれている。これは2013年にアベノミクスという言葉ができたころ出した本だが、そこで予言した通り、量的緩和では何も起こらなかった。「ゼロ金利で量的緩和はきかない」というのは今では世界的なコンセンサスだが、問題はその代わりにどうするのかである。
1つの有力な答は、財政拡大だ。安倍政権は今年6月の「骨太の方針」ではプライマリーバランス(PB)の黒字化目標を実質的に放棄し、「債務残高のGDP(国内総生産)比の安定的な引き下げ」を目標にした。これは不可能ではない。図のように財政支出(一般歳出・社会保障を含む)のGDP比は安倍政権の発足以来、2%ポイント以上も下がったからだ。
出所:IMF(国際通貨基金)
PBは赤字なのに財政支出が相対的に減った最大の原因は、長期金利が下がった(ほぼゼロになった)ことだ。PBは一般会計歳出から金利支払い(国債費)を引いた財政収支なので、黒字にすることは絶望的だが、国債費を含めた収支は改善しているので債務残高を減らすことは不可能ではない。