アメリカの共和党が提案した「国境調整税」が話題を呼んでいる。トランプ大統領の「メキシコに35%の関税をかける」といった保護主義と混同されがちだが、これは彼の当選する前の昨年夏に共和党主流派が出した、包括的な税制改革案である。その狙いは貿易赤字を減らすことではなく、法人税をなくすことだ。
この提案に対して、アメリカの小売り業者は「輸入品が大幅に値上がりする」と反対運動を展開しているため、実現するかどうかは不透明だが、この改革案はきわめて合理的である。
その目的は輸出を増やすことではなく、グローバル資本主義の流れを変えることで、実現したら、そのインパクトは革命的といってもよい。
法人税を廃止して課税をキャッシュフローに一元化
国境調整税という名前は誤解を招くが、正式名称は「目的地キャッシュフロー税」(Destination-Based Cash Flow Tax)という。難しそうだが、その中身はシンプルだ。具体的には、次の3つがポイントである。
1. 利益に課税する法人税を廃止し、キャッシュフローに20%課税する
2.商品が消費された場所で課税し、海外の売り上げには課税しない
3.輸入品にも同じ税率をかけ、輸出品にかけた税は輸出のとき払い戻す
この税金の本質は(国内も海外も同じく)会計上の利益ではなくキャッシュフローに課税する点にあるので、この記事では「キャッシュフロー税」と呼ぶ。今の法人税は複雑で抜け穴が多い。日本の法人の7割が赤字で、税金を払っていない原因は、法人税が帳簿上の利益に課税されるからだ。
会計上の利益は、償却の期間を変えると大きく変わる。特にややこしいのは減価償却である。租税特別措置も償却期間の変更で行われることが多いので、税務当局の裁量が大きい。
共和党の改革案では利益に課税する制度をやめ、正味のキャッシュフローに20%課税する。売り上げから仕入れや人件費などの経費を差し引いて課税するが、減価償却も金利も経費として認めない。租税特別措置もほとんどなくなり、税制は劇的に簡素化される。