(文:青柳 尚志)
3月の金曜日の夜更け、深夜2時を過ぎた六本木交差点。飲み過ぎて時間ばかりが経過し、街に出てタクシーを拾おうと思っても、拾えない。そこにはタクシーを待ち、虚しく手を挙げる酔客たち。さすがに1万円札をかざす人は見かけなかったが、街の雰囲気がちょっと違う。送別会のシーズンだからかもしれないが、銀座コリドー街の賑わいも尋常ではない。
目を見張る大阪の地価上昇
国土交通省が3月21日に発表した、今年1月1日時点の公示地価。住宅地価格が9年ぶりに底打ちし、わずかながら上昇した。新聞記事は見出しを採りやすい住宅地に焦点を当てたが、住宅地ばかりでなく、商業地と工業地の価格も上昇している。そして神々は細部に宿る。大阪の動きに目を見張る。商業地の上昇率の上位5地点をみてみよう。
1 道頓堀1-6-10(づぼらや) 41.3%上昇
2 宗右衛門町7-2(CROESUS(クリサス)心斎橋) 35.1%上昇
3 小松原町4-5(珍竹林) 34.8%上昇
4 心斎橋筋2丁目39番1 33.0%上昇
5 茶屋町12-6(エスパシオン梅田ビル) 30.6%上昇
いずれも大阪市で前年比の上昇率は3割を超えている。ちなみに6位は京都市の祇園町、7位は名古屋市の名駅、8~10位は東京の銀座だが、大阪が上昇率のトップ5を席巻したのは初めてだろう。1位に輝いた道頓堀エリアは地下鉄なんば駅から450メートルの距離。鑑定評価員によれば、「外国人観光客の増加にともなって、賑やかさが増していることから新規の出店需要が強い。さらに周辺部はホテル用地としての需要も旺盛」というのだ。
大阪の観光名所、通天閣にほど近い地下鉄・恵美須町駅(大阪市浪速区)。訪日外国人が多く乗降する出入り口からすぐの場所で、約360室の大型ホテルの建設が進んでいる。日本経済新聞によれば、同じ場所には2014年までシャープの営業拠点があったが、売却されていた。
興味深いことに、所有者はアジア系の大手旅行会社。不動産鑑定士によると「公示地価を大幅に上回る価格で土地が取引された」。新設するホテルは外国人客が多い「道頓堀ホテル」を展開する王宮(大阪市)が運営する計画で、「電機大手などのオフィスからホテルへ」という動きを象徴する。
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