2017年5月11日、NHKは次のように報道した。
「北朝鮮が世界30か国以上の銀行を狙ってサイバー攻撃を仕かけ、多額の現金を盗んだ可能性が高いことが、米国やロシアの情報セキュリティ会社の調べで分かった」
「米の情報セキュリティ会社シマンテックの幹部は10日、アメリカの議会上院で、『北朝鮮のグループが、サイバー攻撃でバングラデシュ中央銀行から8100万ドル(90億円)を盗んだ』と証言し、そのうえで、サイバー攻撃が北朝鮮の国家による犯行という認識を示し、警戒感をあらわにした*1」
各金融機関にはサイバーセキュリティ対策・金融犯罪対策・内部不正対策の見直し・強化が求められている。
さて、昨年末のロシアによる米国大統領選への妨害工作や今回発覚した上記の朝鮮による世界各国の銀行に対するサイバー強盗など、最近は国家による政治的・経済的動機を背景としたサイバー攻撃が際立っている。
数年前には中国国家による米国企業に対するサイバー攻撃を巡る米中対立が注目を集めた。
このようにサイバー空間における国家(政府機関または政府の支援を受けたハッカーグループなど)による不法行為(犯罪行為あるいは重要インフラへの攻撃は戦争行為であるなどの様々な意見がある)が頻発している。
なぜ、このような国家による不法行為を防止できないのか。その要因としては、サイバー空間における国家の行動規範に関する国際的コンセンサスの不在がある。
本稿の目的は、サイバー空間における国家の行動規範設定の必要性とその問題解決に向けた国際的な努力の現状を紹介することである。
サイバー空間に国際法は存在しない
国家の行動を規制するのは国際慣習法や条約などの国際法である。ただし、現在サイバー空間における国家の行動を規制する国際法は存在しない。
そこで、既存の戦時国際法(国際人道法ともよばれる)がサイバー攻撃に適用できるのか否かについての意見の対立が生じている。対立する米中の意見を次に紹介する。
米国は、「サイバー空間における国家の行動に関する規範については、国際慣習法の再策定を必要としていないし、既存の国際的規範は陳腐化していない。長期にわたり平和および紛争時の国家の行動を導いてきた規範はサイバー空間にも適用できる*2」としている。
*2=米ホワイトハウス「INTERNATIONAL STRATEGY FOR CYBERSPACE」http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/rss_viewer/international_strategy_for_cyberspace.pdf