炎天下の計測作業
藤原さんの今回のタスクは、ヤンゴン市内を一周する環状鉄道上に67カ所ある分岐器、すなわち線路の向きを変えて車両の進路を変更するための機器を1つずつ調べ、状態を確認することだ。
日本が2015年7月に合意した環状鉄道の近代化に向けた協力では、全周の信号システムと踏切の改良、およびディーゼルエンジンで発電しモーターを回す電気式ディーゼル気動車の導入については日本が円借款を通じて協力し、軌道・土木工事はミャンマー側自身で行うことで合意されている。
つまり、今回藤原さんたちが調査している分岐器も、一義的には、MRが対応すべき範囲の事項ではあるのだが、そうは言っても英領植民地時代に鉄道の敷設工事が行われた際に設置されて以降、何度か交換されてはいても、作業が追い付いていないため、中には分岐器のポイント部に付けられた可動レール(トングレール)の先端が欠けて破損しているものもあり、老朽化が著しい。
すべて交換するか、交換は一部にとどめて現状のものを使い続けるか、その場合の割合によってコストが大きく変わってくるのは事実だが、もし、これ以上の使用に耐えられない分岐器が交換されないまま使用されることになると、今後、線路が改良され、列車の走行速度が上がった時に深刻な脱線事故につながりかねない。
そこで、10月に2週間と11月に2週間の計4週間ですべての分岐器の現状を確認し、その結果をMR側に提示することになったのである。
その作業は、驚くほど地味である。「遊間」と呼ばれるレールとレールのつなぎ目部分の間隔の長さや、左右のレールのずれ、レールの断面のすり減り具合(摩耗)など、ただただ、分岐器のあらゆる箇所の長さをひたすら計測し続けるのだ。
「ほら、かがんで見てごらん。上側が手前側に伸びているでしょ。車両に叩かれ続けることで、レールがこんなふうに変形してしまうの。これがレールフロー。だから遊間はレールの下側で測らないとダメなの」
「くっつき過ぎると分岐器の先端がぶつかって動かなくなるから、4ミリ前後が理想だね」
藤原さんの説明を聞きながら、しゃがみ込んでレールに顔を近付けてみると、確かに上の方が少しひしゃげているようにも見える。
それにしても、炎天下でこんな姿勢を続けるのは楽ではない。レールの計測地点に白チョークで番号を振る人、計測した数値を読み上げる人、それをシートに記録する人、そして各地点の写真を撮る人・・・。