握りずし。ワサビを利かせ醬油をつけて食べる。すしの系譜の中で江戸時代に誕生した。

 日本人なら「握りずし」の嫌いな人はほぼいないだろう。和食ブームを背景に、すし店では外国人の姿も目立つ。私たちを引き付ける握りずしの魅力は何だろうか。「食感」という視点で追ってみた。

握りずしは江戸の偉大な発明品

 握りずしは高級な食べ物というイメージがある。一方、気軽に入れる回転ずしや持ち帰り用のすしが普及し、身近な食べ物となっている。

 そもそも、すしは、肉や魚を保存するために、ご飯に漬け込んだものだった。米の乳酸発酵を利用した初期のものを「なれずし」という。日本では、平城宮址から出土した木簡に、タイを用いた「多比鮓(たひずし)」としてなれずしの記載がある。すしは「鮨」「鮓」「寿司」などと表記されるが、「鮓」はなれずしを指す。

 平安時代になると、フナやアユなどの魚介類を用いるようになり、室町時代中期には魚だけでなく、漬け込むのに使ったご飯も食べる「生成(なまなれ)」が考案された。

 江戸時代には、短時間で作るよう工夫され、圧力を利用した「箱寿司」や、酢飯と魚を笹で巻いた「笹巻きずし」ができた。

 そして、私たちがよく知る「握りずし」は、笹巻きずしをヒントにすし飯に生の切り身を合わせたものとして、文政年間(1818~1830)にできたとされる。当時の握りずしは、屋台でさっと食べるファストフードだった。それを考えると、現在の回転寿司の手軽さは江戸時代に原点回帰したものといえるかもしれない。