逆に個人の分担がはっきりしていたら、会議や連絡・調整の必要が少なくてすむし、仕事の計画が立てやすく、時間内に終えるように段取りができる。また自分の仕事をかたづけたら周りに気兼ねなく帰ることができる。

 さらにフレックスタイムや短時間正社員といった柔軟な勤務時間制度やテレワーク、在宅勤務なども取り入れやすくなる。

 要するに、わが国の長時間労働や休暇の取りにくさ、硬直的な勤務制度は個人の仕事が「分化」されていないところに大きな原因があるといえよう。

格差解消、生産性向上の成否も個人の「分化」にかかっている

 働き過ぎの問題だけではない。正社員と非正社員の大きな格差の問題も、実は個人の「未分化」と深く関わっている。

 日本企業の正社員は会社という共同体の一員として忠誠心と無限定な仕事が求められる一方、市場の圧力から雇用や待遇が厚く保護されてきた。つまり個人が組織や集団から「分化」されていないのである。

 それに対して非正社員は共同体のメンバーとしての資格を持たず、市場や景気の波に直接さらされる。しかも正社員の待遇を維持しようとすれば、そのしわ寄せが非正社員に及ぶのは避けられない。正社員の「未分化」のツケを非正社員が払わされているといってもよい。

 正社員と非正社員の賃金格差がこうした二重構造に基づくものである以上、そこに踏み込まなければ「同一労働同一賃金」の実現はとうてい困難である。本気で格差解消を目指すなら、正社員・非正社員を問わず個人の能力に応じて処遇する体制に切り替えなければならず、それには個別管理、すなわち個人の「分化」が欠かせない。