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インド旧紙幣、ガソリンスタンドでの使用期限が突然前倒し

インド・ニューデリーのガソリンスタンドで500ルピーの旧紙幣でガソリン代を払う客(2016年12月2日撮影)。(c)AFP/Dominique FAGET〔AFPBB News

(文:緒方 麻也)

 インド・モディ政権による衝撃的な「高額紙幣廃止」措置から2カ月、商売や市民生活の混乱もようやく収束に向かい始めている(2016年11月16日「インド『高額紙幣廃止』はブラックマネー対策に有効か」参照)。しかし、市中の紙幣流通量の86%、20兆ルピー(約32兆円)ものキャッシュを無効化しただけに、現金取引の多い小売りや消費財関連産業、2輪車販売、そして農村部などでは一時的とはいえ大幅な需要減に見舞われている。

 これだけのダメージを承知の上で実施した高額紙幣廃止の狙いは、名目GDPの25%を占めるとされるブラックマネーの捕捉・締め出しや偽札対策、と言われているが、その先には不透明かつ非効率で脱税や不正蓄財を生みやすいインドの「現金依存経済」をデジタル経済、キャッシュレス経済へと一気に移行させるという途方もない狙いが見えてきた。

「デジタル優遇」策を続々と実施

 政府は昨年12月上旬、まず国営保険会社の保険料について、オンライン支払の場合8~10%割り引く措置を発表。同月下旬には一般企業の給与支払いのキャッシュレス化を閣議承認した。ニティン・ガドカリ道路交通相は地元経済紙に対し、「近く高速道路の料金徴収を100%電子化する」と表明した。

 国営石油会社のガソリンスタンドでは12月中旬から、クレジットカードやデビットカードでの支払いに対してガソリンや軽油代の0.75%割引を開始、1月からは割引を家庭用LPGにも拡大した。また、国鉄の乗車券でも同様に1月から1%の割引を適用した。2月上旬にも発表する2017年度(2018年3月期)予算案では、電子支払いによる所得税の割引措置が盛り込まれる見通し。あの手この手で市民の支払いをデジタル・キャッシュレスに誘導している。

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