米国のアジア太平洋戦略は、中国海軍力の台頭を受けようやくその新たな姿を明らかにしてきた。

 ジオ・ポリティカルな関心において一貫する米国外交の新態勢は、バラク・オバマ大統領と言うよりヒラリー・クリントン国務長官の指導下に、くっきり形をなそうとしている。

 これを試みに米国によるアジア太平洋「大四角形構想」と命名し、この先米国外交を見る際のフレームワークとしたい。

TPPは中国に対する抵抗線

オバマ大統領、TPP推進の決意を示す APEC最高経営者サミットで講演

APECでTPP推進の決意を示す米国のバラク・オバマ大統領〔AFPBB News

 四角形を下から支えるのが、シンガポールからオーストラリアとニュージーランドに及ぶラインで、中国の海洋進出に対する「抵抗線」をなす。

 この線がいわゆるTPP(環太平洋経済連携協定)発祥の場であることは、米国がなぜTPPに強い関心を寄せるかをよく説明する。

 ちなみにこの点が、経済面に偏す我が国のTPP論からはまるで見えてこない。

 TPPが天然の対中要害をなす事実に、外務省などは気づいているだろう。けれども菅内閣の誰彼にシャレた説明でもした日には、次の瞬間、「実はアレ、中国への抵抗ラインでしてネ」などとぺらぺらやりかねない。言わぬが花を決め込んでいると想像する。

主役はオバマでなくクリントン

 大四角形を図示するのは後回しにし、まず指摘しておくべきは、我々の関心をオバマ大統領からクリントン国務長官へ思い切って転換しなくてはならないということである。

 オバマ氏のアジア歴訪は、めぼしい成果に至らなかった。最大の失点は、米韓自由貿易協定(FTA)を仕上げるのに欠かせない妥協を韓国側から取り付け損ねたことだ。

 米国産自動車と牛肉に対し韓国が設けた壁がそのままでは、さらぬだに反対の米議会を米韓FTAの批准へもって行かせることなどできない。