国民投票の結果、英国の国民はEU離脱という道を選んだ。第2次大戦後、ヨーロッパに再び戦争を起こさないために各国が協力して築き上げた協力体制が、大きな転換点を迎えている。
この出来事は、国を越えた協力がいかに困難かを示すものだ。私たちはさまざまな組織を通じて互いに協力するが、この社会的協力にただ乗りする者(フリーライダー)や、協力の足をひっぱる者が必ず現れる。
私たちは、協力へのさまざまな妨害をどうすれば乗り越えることができるのだろうか。今回は、人間の協力行動に隠された謎を進化の観点から考えながら、社会における協力の未来について考えてみよう。
働き蜂はなぜ自分を犠牲にできるのか?
社会をつくって協力し合うのは、人間だけではない。ミツバチやアリなども、同じ巣で暮らす個体同士が協力し合う。その協力のレベルは極めて高いため、しばしば人間と比較される。
ミツバチやアリなどの社会は「真社会性」と呼ばれ、同じ巣で暮らす雌個体の間に、子どもを産む「女王」と、子どもを産まずに女王を助ける「ワーカー」(働き蜂、働き蟻など)という、「繁殖分業」がある。「ワーカー」は子どもを産まないだけでなく、ときには自らの命を犠牲にして、巣を守る。
このような不妊や自己犠牲は、自然淘汰による進化理論を築いたダーウィンを悩ませたテーマだ。ダーウィンの自然淘汰理論によれば、生物個体の間には適応度(生存力と繁殖力)の違いがあり、適応度の高い個体の性質がより頻繁に子孫に伝わるために、進化が起きる。この理論では、子どもを産まない(繁殖力がゼロの)個体や、他者のために自らの命を断つ個体が進化するはずがない。
ダーウィンは、子どもを産まないワーカーがどうやって進化したかという難問を解決するために、「家族淘汰」というアイデアを提唱した。
育種家が肉に霜降りの多い良質の牛を育種する過程を考えてみよう。肉の品質をチェックするには、牛を殺す必要がある。殺した牛を使って肉の品質を比べ、霜降りが多い個体を選んだら、育種家はその個体の家族を使って次世代を育てる。家族には同じ遺伝的性質が共有されているので、この方法で育種家は牛の肉の品質を改良できる。
同じことがミツバチでも起きたのだろうとダーウィンは考えた。女王とワーカーは親子であり、したがって同じ遺伝的性質を共有しているはずだ。このため、ワーカー自身が子どもを産まなくても、女王を助けることで女王の子どもの数が増えれば、結果として「家族全体」で残す子どもの数が増えるだろう。