(英エコノミスト誌 2016年6月25日号)
過去の歴史が示唆するAIの将来と社会が取るべき対応
「人間の労働を機械にやらせることは・・・人余りをもたらす」かもしれないと専門家たちが警告を発している。「適切な使い方を把握する前に」「この強大な力を発見」してしまったのではないかと危惧している。今日、このような恐怖感を口に出しているのは、人工知能(AI)の進歩が数千万人分の雇用を破壊したり、「ターミネーター」型の脅威を人類に突きつけたりしてくると懸念する人々だ。
しかし、実を言えば、上に引用した言葉は2世紀前の評論家たちが機械化と蒸気機関について語ったときに用いたものだ。あの当時、機械がもたらす危険についての議論は「機械問題」と呼ばれていた。今、それによく似た議論が展開されている。
AI時代の幕開けかと思わせながら空振りに終わったことは過去に何度もあったが、ここ数年の進歩は本当に目覚ましい。「ディープ・ラーニング(深層学習)」という汎用性のある技術のおかげだ。
十分なデータを与えれば、人間の脳の構造をモデルにした巨大な(すなわちディープな)ニューラル・ネットワークは、あらゆる種類の仕事をこなせるよう訓練することができる。すでにグーグルの検索エンジン、フェイスブックにおける写真の自動的なタグ付け、アップルの音声アシスタント、アマゾンのおすすめ商品の選定、テスラの自動運転車などに応用されている。
しかし、AIの急速な発展は、安全性と失業についての懸念も引き起こしている。例えば科学者のスティーブン・ホーキング氏や起業家のイーロン・マスク氏をはじめとする人々は、AIが制御不能になり、人間と機械の間にSF小説のような戦いをもたらす恐れはないのかという疑問を抱いている。
また、これまで人間にしかできなかった知的な仕事がAIによって自動化され、大量の失業者が生まれるとの不安を口にする人もいる。つまり、200年の時を経て「機械問題」が蘇ったのだ。これには答えを示さなければならない。