これが時代の波というものなのか――。
2015年7月末、当欄で「ロボットが人間の職を奪う日がついに到来」という拙稿を執筆し、「テクノロジー失業(テクノ失業)」という言葉を使った。
人工知能やロボットの登場により、単純労働だけでなく知的労働の領域にまでテクノロジーが導入されて、勤労者の職が奪われる現実だ。そのテクノ失業がいま、加速度的に世界へ広がりを見せている。
鴻海が大リストラ
5月25日、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が6万人の工場作業員を解雇すると発表した。日本では大きく報道されていないが、解雇の理由は受注の減少ではなく、「ロボットに置き換えるため」だった。
ホンハイと言えば今春、シャープを買収した台湾最大手のIT企業だ。デルやヒューレット・パッカード(HP)といった米IT企業の各種パーツの提供、筐体の組立ばかりか、近年はアップルの委託でiPhone や iPadの生産も行っている。
ホンハイの本社は台湾新北市にあるが、生産拠点は中国をはじめとする世界14カ国。従業員は18歳から25歳を中心に約80万人もおり、そのうち54万人が中国本土にいる。
テクノ失業は言葉としては新しいが、産業界の現象としては以前からあった。コンピューターの導入によって、企業内の効率化が図られての失業が第1次テクノ失業だとすると、第2次はロボットや人工知能(AI)によって人間の仕事が奪われていく現実だ。
実はホンハイは2015年3月にも、組立や検査用のロボット導入にあたり、約4万人の従業員をレイオフした。今回はテクノ失業による追加解雇である。
1社だけの動きであれば単発ニュースで終わるが、今回は同社の6万人解雇だけではない。江蘇省崑山市にはIT関連企業だけで600社が集まっている。昨年だけでパソコンは約5100万台、スマートフォンは2000万台を製造しているおり、余波は計り知れない。