安倍首相は6月1日、2017年4月に予定していた消費税率10%への引き上げを2年半延期することを表明した。この「決断」を題材に、リーダーにおける決断のあり方を考えてみよう。
消費税増税のように、専門家の間でも意見が分かれている問題について、リーダーはどのように決断すればよいのだろうか?
公約撤回、菅元首相との違いは?
安倍首相は2014年11月の衆議院総選挙で、2017年4月には必ず増税を実施すると明言していたので、今回の増税延期は、総選挙で国民に公約した方針を撤回したことになる。
この方針転換に対して、公約違反だ、アベノミクスの失敗である、財政再建が遠のく、社会保障の財源をどうするのか、などの批判がある。だが、共同通信社が6月1~2日に実施した世論調査によれば、内閣支持率は49.4%であり、首相の「決断」はほぼ半数の国民に支持されていると言える(ただし、不支持率もまた41.3%とかなり高率である)。
この状況と対照的な例として思い起こされるのが、菅首相(2010年当時)の消費税増税に関する「決断」だ。2010年6月に鳩山首相の辞職を受けて発足した菅内閣は、鳩山内閣時代に20%を切るところまで低下した支持率を60%台にV字回復させ、出だしは好調だった。
しかし、7月の参議院選挙に向けて従来の公約を撤回し、「消費税増税の協議を超党派で開始する」という方針を表明した。その結果、世論の大きな反発を招き、参議院選挙では議席を減らし、衆参両院で過半数の議席を得る絶好の機会を失った。
菅首相の増税への方針転換と安倍首相の増税再延期はいずれも明白な公約違反なのだが、菅首相は支持を大きく失い、安倍首相は支持をほぼ維持した。この違いはどうして生じたのだろうか。
もちろん、消費税増税は国民の負担を増やす施策なので、その延期に国民の支持を得やすい面はある。しかし、社会保障の財源不足を含め、国の財政がきわめて厳しい状況にあることも多くの国民は理解しており、単に目先の利益だけで支持の判断をしているわけではないだろう。
上記の違いを生んだ要因は、私の考えでは3つある。第1に「一貫性」、第2に「組織的準備」、そして第3に「好感度」だ。この3点は、リーダーが決断を下す場合に常に念頭に置くべき要件だ。