講堂いっぱいに集まった子どもたちが熱心に話に聞き入った(=JIC提供)

 「つい、熱が入っちゃいました」と照れくさそうに振り返りつつ、「今後、日本の鉄道協力によって近代化が進み、列車の速度が向上していく中、安全意識の定着は喫緊の課題。このチャンシッター踏切がその足がかりになれば」と話す村上さんの口調には、日本でも踏切の保守・点検業務に従事していた技術者ならではの責任感と使命感が溢れている。

変わるもの、変わらないもの

 調査をして報告書を提出したり、機材を供与したり、システムを整備したりするだけでなく、その使い方や今後予想される変化について人々に分かりやすく伝え、知ってもらう――。

 日本は近年、支援の一環としてこうした取り組みにも力を入れている。この国の将来を考えると、国土を南北につなぐ大動脈である幹線鉄道の整備が重要であることは間違いないものの、人々がこれまで経験したことがない近代的なシステムを導入するにあたっては、現在の安全意識を改めさせることが不可欠であるためだ。

 実際、新しい踏切システムの共用に併せて開かれた前出のチャンシッター踏切講習会の後、学校長は村上さんに「小学生だけでなく、中学生や高校生にもこの内容を伝えたい」と話しかけてきたという。

 かつては自身も痛ましい事故をたびたび経験しては、それを乗り越えながら今日の鉄道システムを作り上げてきた日本(参照)。その経験を共有し受け継いできた国内の鉄道事業者の出向者たちが集うJICの企画によって実現したこの講習会のような「日本ならでは」の協力は、まだまだあるはずだ。

 また、容赦なく降り注ぐ日差しの下で何時間も線路脇を歩き回って撮影場所を決めたり、汗をぬぐいながら三脚に据えたカメラをのぞき続けた川上ディレクターと松永カメラマンは、沿線の住人からたびたび日除け用の傘を差し出されたり、椅子に座るよう勧められたという。

 「シャイだけど、いい意味でおせっかい。旅行では気付かなかっただろう人々の優しさに触れた」「この国と日本の人々はもっと仲良くできるはずだと感じた」と、すっかりこの国のファンになった様子だ。

 来たるべき近代化を見据え、人々の安全意識や行動を改めるきっかけにしてもらおうと企画された今回の講習会と動画制作。そのどちらにも、新しいシステムを安全に利用してほしいとのメッセージとともに、この国の人々の「変わらないでいてほしい」部分へのあたたかいまなざしもまた、込められている。

(つづく)