2016年3月9日に始まった「世紀の囲碁対決」は、韓国社会に大きな衝撃を与えている。新聞は連日1面で大きく報じ、テレビは生中継をする。会社でも、コーヒーショップでも、飲食店でもどこに行ってもこの話題で持ち切りだ。
3月10日木曜日。韓国のある大企業で開かれた週1回の幹部懇談会。CEO(最高経営責任者)が、10人あまりの役員にこう聞いた。
当社にはどんな影響があるのか?
「ところで、AI(人工知能)がどんどん発達すると当社にはどんな影響があるんだね」
筆者の知人はこの会社の企画担当役員だ。前日夕方、李世乭(イ・セドル=1983年生)9段が、米グーグルが開発したAI「アルファ碁」に完敗したニュースを聞いて衝撃を受けた。
同時にすぐに、翌朝の幹部懇談会のことが頭をよぎった。
「CEOはこの話しを絶対に聞く」
あわてて部下を動員して、AIとは何か、どんな産業にどんな影響があるかの外部リポートを探しまくった。
たぶん、この日、多くの会社でこんな会話が交わされたはずだ。この日から、会食をしても、この「世紀の対決」の話にならなかったことはない。
世界中で大ニュースになったが、実際に対極が行われた韓国でも想像以上の関心事となった。
グーグルが2014年に買収したAI開発会社「ディープマインド」が開発した「アルファ碁」が李9段と対局することは、対局前から韓国でも大きな話題になっていた。