遠心分離器の形状と型から、パキスタンが新型のP3に交換した時期の後であり、パキスタンが廃棄した使い古したP2を入手し、寧辺に再設置した可能性が高い。そのためには、カーン研究所での北朝鮮技術者のオン・サイト訓練の支援も不可欠であろう。
また、中国からの民生用品の入手、イランからウラン技術の協力と交換もあったとみられる。
これらの海外からの支援は、北朝鮮の核開発の能力の現況と将来を的確に見積もるうえで重要な考慮要因である。プルトニウムの方が濃縮ウランよりも臨界量が少なく、小型化が容易であり、ミサイル搭載には向いている。
しかし、より多くの核分裂物質を持ち、より多くの回数の核実験を行えば、それだけ彼らは核兵器能力を強化できる。
また、彼らが別の核爆弾用の遠心分離装置をどのようにして手に入れたのか、また彼らにはウラン濃縮の技術があるのか、いつごろそのレベルになるのか、さらにそのようにして得られた能力をどのような戦略に適合させようとしているのかも重大な問題である*6。
しかし、分離時に発生する熱を冷却するための、アルミケース外部に、らせん状に配線されている冷却用パイプが、イランのウラン濃縮工場の遠心分離器にはみられたが、寧辺のものにはみられない。
このことは、遠心分離器が過熱し効率が低いことを示唆している。また遠心分離器の素材も、六ケ所村が使用している炭素繊維と異なり、重いアルミを使用している。
また2012年3月にヘッカー氏は、彼が見た寧辺のウラン濃縮工場について、「あの工場は水準が高いうえ規模が大きく、建物の内部は以前見たものと全く異なっていたことから、北朝鮮が主張している2009年4月よりもはるかに前から稼働していたに違いないと結論できる」と述べている。
また彼は、北朝鮮は、長崎に投下された原爆と同程度の被害を与えられる、2012年3月時点で、4~8発のプルトニウム型原爆を保有していると見積もっている*7。
北朝鮮の主張によれば、寧辺の青い屋根のウラン濃縮施設は2009年4月の建設開始から、2010年11月の稼働まで、わずか18カ月しかかからなかったことになる。
おそらく北朝鮮は、340基の一まとまりの遠心分離装置からなるカスケードを別の場所でもっと前から設置して稼働させ、その後寧辺のこの濃縮施設に持ち込んだのであろう。ヘッカー氏は、北朝鮮が、秘密の高濃縮ウラン生産施設をある期間稼働させているかもしれないとみている。
北朝鮮の核兵器の設計能力ついては、2012年3月時点で、出力が最大20キロトンの長崎型原爆の設計能力はあるかもしれないが、投射手段は、航空機、ボート、バン型車両などに限られるとみられていた*8。
*6=Ibid., pp. 7-8.
*7=Scientist: North Korea likely has more nuclear facilities, By Paula Hancocks, CNN, March 23, 2012.
*8= Nuclear developments in North Korea, by Siegfried S. Hecker, pp. 5-6.