米国とロシアによる偶発的な核戦争の可能性が捨てきれない――。
年末になって、とんでもない言説が核兵器の米専門家から出されている。米ロによる冷戦時代が終わってからすでに25年以上が経っている。それなのに、なぜいま両大国による核戦争というフレーズが使われるのか。
しかも「可能性はある」と聞き捨てならない表現である。言説は偏執的な軍事専門家から出されたものではなく、著名な米大学の研究者によるものである。
1人はマサチューセッツ工科大学(MIT)で物理学と国際安全保障問題を研究するセオドア・ポストル教授だ。
冷戦時より高い危険度
原子物理学の専門家で、アルゴン国立研究所や国防総省(ペンタゴン)での勤務経験もあるミサイル防衛(MD)問題の第一人者である。筆者も以前、MITの研究室でインタビューしたことがある。
もう1人はプリンストン大学にある世界安全保障研究所のブルース・ブレア所長。
米空軍で大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射管理を担当していた経験もある研究者で、米ロの安全保障問題の専門家だ。同所長はウクライナ紛争以降、ロシアが核兵器への依存度を高めており、冷戦中にも見られなかった核兵器による威嚇を注視している。
両氏が米ロによる核戦争の可能性は捨てきれないと発言しているのだ。
ブレア所長は「冷戦時代よりも今の方が危険」とさえ言う。核兵器管理の現状を把握している両氏だけに、現状を煽っているわけではない。
むしろ、むやみに危機感を増幅させるべきではないとの立場だ。しかし、政治判断や人為的なミスによって核戦争に発展する可能性があると警鐘を鳴らしている。