惣菜のストックをつくるのは楽しい。野菜を下茹でしたり、豆を煮たり、ときには大量のミートソースを仕込んだり。出来上がったものをせっせとラップフィルムにくるみ、ジッパー式の保存袋や保存容器に入れ、冷蔵庫や冷凍庫に詰める。
忙しいときでも「冷蔵庫にあれがある」と思えば、心強い。つくり置きの惣菜は、心の余裕までストックしてくれるみたいだ。
私と同じように感じる人は少なくないのだろう。ここ数年「つくり置き」「常備菜」を謳うレシピ集が料理本コーナーをにぎわせ、ベストセラーも生まれている。その筆頭が、主婦の友社から出版された『作りおきサラダ』『作りおきそうざい』などの「作りおき」シリーズだ。2013年より刊行され、2015年9月現在でシリーズ累計64万部に達している。
だが、いまと違って冷蔵庫がない時代は、人々にとって食料の保存はもっと切実な問題だったにちがいない。おまけに現代のように、いつでも新鮮な食材が買えるスーパーもなかったわけだから、収穫したものをいかに長くもたせてやりくりするかは、日々の食卓を大きく左右したはずだ。
いまも昔も変わらず、台所に立つ人にとって大きな関心事である食料の保存。それがどのように変化を遂げ、暮らしを変えてきたかを追ってみよう。
密閉で可能になった「そのまま」保存
食料の保存の歴史をたどると二度、大きな転換期を迎えている。一度目は、19世紀初頭における瓶詰の発明である。これはさらに缶詰の登場にもつながっていく。そして二度目が19世紀後半から20世紀にかけての冷蔵技術の発達、つまりは冷蔵庫の普及だ。