前回、クリーンエネルギー技術の開発から商業化までのプロセスとその流れの中で、誰が、どの様な性格の資金をエネルギーベンチャー企業に提供しているのか解説しました。

ITとETでは産業構造が全く違う

 このクリーンエネルギー技術開発の特徴を理解すると、前回指摘したベンチャー企業のM&A(合併と買収)によって事業を拡大してきた大手IT企業が、クリーンエネルギー市場参入に当たって、これまでと何か違う戸惑いを感じる理由が見えてきます。

 今回は、ITとET(エネルギー技術)の融合を試みる際に、IT企業が直面する3つの挑戦について説明します。1つ目は、ITとETの商業化のプロセス自体の違いです。

 クリーンエネルギー技術は、ステップ・バイ・ステップつまり、“石橋をたたいて渡る”手法によって技術をスケールアップしながら検証するため、商業化までかなりの資金と時間が必要となることは、前回説明しました。

 一方、ITを商業化する場合、例えばソフトウエアの場合ですと、新しいソフトを開発する際に、プログラミングやコーディングなど高度な設計、分析、テスト、保守など一連の作業工程が必要とされます。

 その新しいIT製品の開発・検証に必要とされる主な設備は、コンピューターやサーバー程度ではないでしょうか。そして、新しく開発されたソフトをCD-ROMにコピーしパッケージに入れれば、基本的には商品化プロセスは完結です。

開発コストだけでなく時間も大きく異なる

 一般的なITの商品化には、クリーンエネルギー技術のように、開発技術を商業化に漕ぎ着けるまでに数百億円規模の資金は必要ありません。

 また、時間軸も大きく異なります。

 先ほどのソフトの例にしても、バグがないかといった技術検証は当然行われ、製品の完成度を高める作業はあります。しかし、まずは製品を市場に出して、使いながらバージョンアップしていく発想です。ITの商品化はスピードが重要なのです。

 仮に技術革新のスピードが速いIT産業で、クリーンエネルギーのように技術の開発・検証・商業化プロセスに10年単位の時間をかけては、ライバルとの競争には勝てないでしょうし、製品が市場に投入される頃には技術そのものが陳腐化している危険性があります。

 クリーンエネルギー技術の商業化に当たって必要となる資金規模や時間が、IT企業が慣習的に持つ資金感覚とスピード感覚に全く相容れないのです。