(本コラムは、筆者が感じた銃社会の現実を表現するため、殺人事件についての直截的な表現が含まれていることをあらかじめお断わりしておきます。)
8月26日の昼ごろ、ワシントンDC市内のスターバックスに1人でいた筆者は、密かにパニックに襲われた。ここで誰かが銃を撃ち始めたら自分には逃げ場がないと思ったからだ。
座っていたのは出入り口からもっとも奥まった席。落ち着ける場所だったが、何かあったとき店外へ逃がれにくい袋小路だった。身を隠すものといえば簡素な椅子とコーヒーテーブルぐらいである。こんなものがどう役に立つのかと思ったとたん、急に心細くなった。店員や客に向かって発砲しながら近づいてきた銃撃犯が自分の目の前で立ち止まり、眉間に狙いを定めてくるシーンが脳内でフラッシュした。生まれて初めての体験だった。
こうなったのには理由がある。その日の朝、隣州バージニアでローカルテレビ局のリポーターとカメラマンが生放送中の現場で撃たれ死亡する事件があったからだ。日本でも大きく報じられたようだから、おおかたの読者はご存知だろう。過去にテレビ局を解雇された男による逆恨み的な犯行とされている。