米国南部を舞台とした2つの事件が議論の的となっている。どちらも被害者は「丸腰の黒人」。「自警団」に射殺されたフロリダ州サンフォードの少年と、ハリケーン・カトリーナに襲われた直後の大混乱の中、警官に撃ち殺されてしまったルイジアナ州ニューオーリンズ市民である。
正当防衛はどこまで認められるのか?
日本での報道にある「自警団」との言葉の響きから白人至上主義団体KKKの残党の仕業か、と一瞬思ってしまうが、この事件はWASP(白人、アングロサクソン)ではなく、逆に至上主義者から差別される側にいるはずのヒスパニック青年が引き起こしたもの。
「ゲーテッドコミュニティ」という半閉鎖空間の安全を守ろうとする自警活動の中での「正当防衛」という主張がどこまで認められるかが今後の焦点となりそうだ。
もう1つのケースは、ハリケーン・カトリーナ被災後の出来事だから、東日本大震災を経験した日本人にはより興味がわくかもしれない。ニューオーリンズと言えば、もともと名だたる犯罪都市だけに、被災直後、掠奪などの犯罪は相当ひどかったらしい。
しかし、本来それをコントロールし弱者を守るべき立場にいるはずの警官が、混乱の中右往左往する市民を、どうしたことか射殺してしまい、その証拠隠滅まで図っていたというのだから救いようのない話である。裁判では最高で65年の刑を5人の警官が言い渡された。
そんな被災直後のニューオーリンズを舞台に、ニコラス・ケイジがあの独特の困り顔で麻薬に溺れた警官を怪演する『バッド・ルーテナント』(2009)は、デフォルメされているとはいえ、このあたりの現実を感じ取れる作品だ。
ルイ14世にちなんでつけられたルイジアナ
それでもケイジ演じる腐敗警官は、生命の危機にさらされた容疑者を身を傷めてまでして助けるのだから、現実の警官たちよりずっとましである。大震災後の日本の秩序正しさを驚きの目をもって見ていた米国人の「常識」の背景には、こうした現実があるのだろう。
映画はセネガルからの不法移民殺害事件を巡って展開していく。そんなプロットだけを聞けばパリかマルセイユあたりでの話のようにも思えるが、ルイジアナはフランス系が多くフランス語が結構通じたりすることもあるところ。
その名も、フランス王ルイ14世にちなんでつけられたもので、仏領ルイジアナの名残でもある。
さらに、1804年にフランスから独立を果たしたハイチの混乱を避けるように数千人もの人々がやって来たため、南端のニューオーリンズなどではハイチ色が残されており、ブードゥー文化も少々形を変え観光資源にさえなっている。