安保法案、衆院特別委で可決 自衛隊の役割拡大定める

衆議院平和安全法制特別委員会で、野党議員の質疑に答えるために挙手する自民党の安倍晋三首相(2015年7月15日撮影)〔AFPBB News

 8月11日、参議院特別委員会で小池晃共産党議員は、防衛省統合幕僚監部が今年5月末に作成した内部資料を暴露し、審議が中断した。

 お盆明けの19日、審議は再開したが、同議員が「成立前の検討は許されない」などと批判して審議は紛糾した。

 民主党の枝野幸男幹事長も17日、統合幕僚監部が安全保障関連法案の成立を前提とした資料を作成していたことに関し、「参院(特別委員会)での集中審議や衆院の予算委員会で問い正さないといけない。党首討論も必要だ」と国会内で記者団に述べていた。

 何事が起こったのかと、筆者も今回の資料を早速入手してみた。だが、血相を変えて非難するようなものでは全くないし、拍子抜けするものだった。まさに法案への反対運動を盛り上げるための非難であるとしか思えない。

法案成立後の準備をするのは当たり前

 資料は統合幕僚監部が安保法案の内容を部隊指揮官に説明するテレビ会議用に作成したものであった。「『日米防衛協力のための指針』(ガイドライン)及び平和安全法制関連資料について」という標題であり、法案が施行されたら、速やかに任務遂行が可能になるよう、今後、何を検討し、何を準備すべきかという、主要検討事項を整理したものにすぎない。

 検討事項についても、「現行法制下で実施可能なもの」と「法案の成立を待つ必要があるもの」を弁別し、「フライングだ」「先取りだ」と言われないよう慎重に配意されている。どう見ても「実力組織の『暴走』が許されない」(東京新聞)と非難されるような代物ではない。

 防衛省だけではない。所管省庁が法案成立後の対応を、あらかじめ検討し、準備するのは当然である。そもそも自衛隊は有事即応が求められ、法律が施行されたその日から任務完遂を求められるからなおさらだ。国家の平和と独立を守り、国民を守る組織が、事が起きてから「準備がまだできていません」ということは許されない。

 阪神淡路大震災での初動対応のまずさを追求されて、当時の村山富市首相は「何しろ、初めてのことじゃからのう」と言った。だが「最後の砦」である自衛隊には、そんな能天気な言葉は決して許されないのだ。

 東日本大震災で津波により予備電源を喪失し、メルトダウンに至った福島原発事故を「想定外」と言った人もいる。だが自衛隊には「想定外」という言葉はない。考えられないことを考え、あらゆること想定し、法律の許す範囲で準備をしておくのが自衛隊の責務である。

 法案の全容が明らかになった時点で、部隊指揮官と認識を共有し、法案が施行された場合のことを想定し、現法制下で準備できることを準備し、検討すべき事項を自衛隊の衆智を集めて列挙、整理するのは当然である。むしろそれを怠るようでは、「職務怠慢」の謗りは免れ得ない。