学生の頃、夏によく川べりのキャンプ場を訪れた。そこは何でも揃っているオートキャンプ場とは違い、簡素な水場とトイレぐらいしかないところ。夏場だけに、食材の保存には気を使う。肉や魚はクーラーボックスに氷と一緒に入れ、それ以外の飲みものや野菜は川に浸す。川の水で冷やしたトマトは、思った以上にひんやりしておいしかった記憶がある。

 たまには、そんな自然な暮らしも風流に思えるが、それはいざとなれば、スーパーやコンビニで冷たい飲みものやアイスが手に入るという安心感の上での話だ。こんなに猛暑の日が続くと、冷蔵庫がない生活をほんの少し想像しただけでも体温が上がりそうな気がする。

 だが、日本で冷蔵庫が普及したのは、それほど古い話ではない。

 日本で初めて国産の冷蔵庫が登場したのは、1930(昭和5)年のこと。発売元は、芝浦製作所(現・東芝)である。価格は720円で、当時としては庭つきの一戸建てが買える値段だったというから、むろん庶民の手に届くはずがない。冷蔵庫が普及するのは、戦後になって生産が再開され、量産されるようになった昭和30年代のことだ。

 それまで日本の台所で「冷やす」といえば、川や井戸の水に浸ける、あるいは、氷の塊を使った「氷箱」「氷冷蔵庫」などと呼ばれる木箱を使うといったもの。ほんの60年ほど前まで、キャンプのときと似たり寄ったりの状況だったのだ。