高千穂町の南に隣接する宮崎県・日之影町。この町では、厳しい地理的条件の中で、コミュニティを維持・活性化するための場として神楽舞が機能しています。なぜ、神楽舞がコミュニティを活性化するのか。実際に現地を訪れた、地域経済の専門家・國學院大學准教授の山本健太氏に聞きます。
高千穂町の神楽を中心に紹介した前回の記事「秘められた神の舞、今や地域の目玉に」と併せてお読みください。
厳しい生活環境で神楽が果たす役割
日之影町大楠集落では、日中に地元の大楠神社に神楽を奉納した後、公民館に場所を移して「半夜神楽」を舞います。山本氏は2014年12月、県立広島大学准教授の和田崇氏とともに同町を訪れ、この神楽舞を調査しました。
──日之影町はどんなところですか。
山本健太氏(以下、敬称略): 町名から、暗いところを想像するかもしれません。でも、「影」とは本来、「光が差し込む」という意味。日之影町は、山間にありながら陽光が差し込む町です。かつて栄えたスズ鉱山が1963年に閉山して以降、農業と観光が主な産業となっています。
生活環境は、厳しいと言わざるを得ません。九州山地の谷間に流れる川沿いにあるため、夏は台風などの水害の脅威にさらされ、冬には雪が積もる。こういったところでは、互いに支え合えるような、コミュニティの存在がとても大切です。そうした環境にあって神楽舞、とりわけ年に1回催される半夜神楽は、単なる伝統文化に留まらない重要な役割を果たしています。