日系企業も多く入居する「プノンペンタワー」からの眺め(写真提供:JCグループ 髙虎男/Ko Honam)

 世界中で水道水をそのまま飲めるという国は、それほど多くない。いや、日本のようにどこへ行っても安全に水が飲める国は珍しい。ましてや1年中暑い東南アジアではなおさらである。

 ところが、その東南アジアで2つだけ、水道の水をそのまま飲むことができる街があるという。1つはシンガポール。そしてもう1つがASEAN(東南アジア諸国連合)の中でも発展が遅れてきたカンボジアの首都プノンペンだという。

 1人当たりの国内総生産(GDP)が日本を上回る先進国となったシンガポールは当然としても、カンボジアは2014年に1080ドルしかない発展途上国である。なぜ、その国で水道水が安全に飲めるようになったのか――。

 その理由は、指南役として名乗りを上げた北九州市にあった。

 水道設備を作っておしまいではなく、メンテナンスやオペレーションに関しても極めて緻密にノウハウを伝授。また、まだ賄賂が当たり前の社会にあって、そういう慣習が入り込む余地をなくすような経営手法を教え込んだ結果である。

 いまや超高層ビルが林立し、東京よりも都会かもしれないと思わせるタイのバンコクだが、最新ホテルのバスタブに水をためると、黄色く変色しているのが分かる。残念ながら、水道に関してはプノンペンの方が圧倒的に先進地域となった。

 プノンペンの水道の漏水率は師匠である北九州市を超えているという。経済が本格的な発展を迎える前にこうしたインフラを整えたことは、これからのカンボジアの発展を考えると実に意味のあることと言える。

安心して飲めるプノンペンの水道水

川嶋 カンボジアとは長い協力関係があるそうですが、どのような経緯で始められたのですか。

木山 カンボジアの首都であるプノンペンの水道施設整備マスタープランは、1991年のパリ和平協定を経て今のカンボジアが立ち上がった1993年から日本主導で作られ、日本や他のドナー国の支援で浄水場など水道施設の復興が進められました。

 われわれは1999年からプノンペン水道公社(PPWSA)の技術指導に携わり、ハード面の復興事業が一段落した後の2003年10月からはJICA(国際協力機構)の水道事業人材育成プロジェクト(フェーズ1、2006年10月まで)に参画しました。