さらに事件後、このバスの前で撮影されたフィリピン警察官と女子学生の無神経な「記念写真」がネットで掲載されるに至り、中国人の怒りは頂点に達した。なるほど、これでは中国人が激怒するのも至極当然だと思う。
フィリピンで高まる嫌中感情
問題はここからだ。
香港政府は8月23日、香港住民に対し、フィリピンへの旅行を控えるよう警告した。マニラの中国大使館は、射殺された犯人の棺にフィリピン国旗がかけられことに対し厳重抗議を行った。
香港では反フィリピン感情がエスカレートした。ある政治家は雇っていたフィリピン人メイドを突然解雇し、フィリピン人排斥を公然と呼びかけた。
さらに、地元テレビ局が今回のバスジャック事件の血生臭い「再現アニメ」を作成したことも、中国人の嫌比感情を一層煽ったようだ。
フィリピン政府は過ちがあったことを認め、ベニグノ・アキノ大統領は犠牲者の遺族に哀悼の意を表した。それでも中国人の怒りは収まらず、ネット上では今も敵対意識剥き出しのフィリピン批判が続いている。
これに対し、フィリピンでもネットを中心に「嫌中感情」が広がり始めた。現在香港には10万人以上のフィリピン人メイドがいるそうだが、彼女たちの間では「香港人はフィリピン人メイドを奴隷のように扱っている」との不満が絶えないらしい。
香港への出稼ぎは彼女たちの重要な収入源だ。弱い立場にいるメイドを解雇するなど香港の理不尽な動きに対しては、フィリピン国内でも「中国人は視野が狭い」「民族主義的である」「内政干渉である」といった批判が高まっているらしい。
ここまで来ると、フィリピン側の反発もよく理解できる。いくら無辜の中国人が犠牲になったとはいえ、感情的とも言える香港人・中国人の反応には、フィリピン現地の事情を理解しようとする姿勢が全く見えないからだ。