その一方で、19世紀後半になると、ガソリンエンジンが発明されました*6。これによって石油の普及が加速し始めます。

ウィンストン・チャーチルが引き金引いた石油革命

 20世紀に入ると、石油採掘技術の進歩に合わせて、石油の利用も自動車から、船舶、飛行機へと拡大し、人々の移動がより頻繁に、かつ長距離化しました。

 つまり、社会のモータリゼーション・モビリティー化が石油の利用を加速させ、20世紀は石油の世紀となったのです。

 石炭から石油への燃料の主役交代が、20世紀初頭に軍事の世界でも起きた話は有名です。それは、第1次世界大戦直前、ドイツと熾烈な海軍増強競争を展開していた英国で起きました。

 1911年に海軍大臣に就任したウィンストン・チャーチルが、自国のウェールズに良質な石炭があるにもかかわらず石油に目をつけたのです。

 熱量の高さや燃料補給のやりやすさなど、石油の利点を十分理解していたためでした。そして、新しく造船する軍艦をすべて石油燃料に切り替える英断を下したのです*7

シェルに頼らず弱小石油会社を育てる道を選択

 石油と国家安全保障が結びつき、石油が国家の戦略物資になった、その最初のマイルストーン的な出来事だったと言えるのではないでしょうか。

 話しが少しそれますが、軍艦の燃料を石油に切り替える決定をしたものの、一滴も国内で石油が採れなかった英国は、石油の調達・供給を、当時から巨大石油会社であったシェルか、弱小のアングロ・ペルシャ・オイル(現BP)のどちらに委ねるか思案していました。

 英国政府は、オランダ資本の入ったシェルへの敵国ドイツの影響を懸念して、最終的にはアングロ・ペルシャ・オイルの株式の51%のシェアを獲得したうえで、20年の長期石油供給契約を結んだのです*7

 アングロ・ペルシャ・オイルは、その後1954年にブリティッシュ・ペトロリアム(英国石油)に改名します。マーガレット・サッチャー政権による国営企業を民営化する政策で1987年に英国政府が株式を放出するまで、国営石油会社だったのです。

*6ウィキペディア 石油

*7 Erik Dahl, Naval Innovation: From coal to oil