長寿をもたらす遺伝子の解明

――飢餓と長寿の関係については、かねてから研究がなされていたと聞きます。例えば1935年には、米国で、摂取カロリーを35%減らしたラットは寿命が2倍延びたという報告があるといいます。近年になり、エネルギー摂取制限と長寿の関係がよく話題になっていますが、どうしてですか?

古家大祐氏(以下、敬称略) 飢餓と長寿の関係性の研究で、新しい大きな潮流が生まれたからです。1988年のシンシア・ケニヨンによる線虫を使った研究や、1999年のレオナルド・ガランテによる酵母を使った研究などです。特定の遺伝子が長寿に関わることが具体的に分かってきました。

古家大祐氏。金沢医科大学糖尿病・内分泌科学教授。博士(医学)。1984年、滋賀医科大学医学部卒業。1992年、同大学附属病院第三内科助手。1994年、ハーバード大学医学部ジョスリン糖尿病センター研究員。滋賀医科大学医学部附属病院内科講師を経て、2005年、金沢医科大学内分泌代謝制御学部門教授。2010年、名称変更、現在に至る。専門分野は内分泌学、代謝学。糖尿病合併症や老化などの研究を行なう一方で、糖尿病の治療に取り組む人たちへのきめ細やかな生活指導なども行なう。著書に『老けない人は腹七分め』(マガジンハウス)がある。

 はじめは、遺伝子の働きを静かにさせておく因子が見つかりました。この因子は、遺伝子からタンパク質ができるまでの過程をじっとさせておく働きをします。つまり、新しい物質を作らせないのです。

 線虫でも、酵母でも、じっとしていて新しい物質を作り出さないでいれば長生きします。そうした効果と関係のある因子が見出されたのです。

 その後、さまざまな研究者が研究を進めていくと、今度は絶食をしたときに活性化する物質や、それを作る遺伝子が見つかってきたのです。

 その物質は「サーチュイン」といいます。リジンというアミノ酸の構造の先に付いているアセチル基を外す“脱アセチル化”酵素の一種です。また、サーチュインの合成を司る遺伝子は「サーチュイン遺伝子」と言います。