かつて日本では、「北朝鮮とは、拉致解決よりも、まず国交樹立を」というのが有力な主張だった。外務省さえもこの線に傾く観があった。だが、「貴重な生命を優先させるべきだ」という国民の主張が勝って、「まず拉致解決を」が政府の方針となったのである。
それがここへきて、日朝国交正常化をまず推進しようとする北朝鮮の主張に同調する向きが再び日本側で台頭してきた。これは警戒が必要な動きである。
国交樹立を最優先する学術訪朝団
日本側のそうした動きを象徴するのは「日朝国交促進国民協会」(会長・村山富市元首相)が呼びかけて結成し、北朝鮮を10月7日から13日まで訪問した「日朝交流学術訪朝団」である。
この訪朝団は、同国民協会の事務局長の和田春樹 東京大学名誉教授が中心となり、合計10人の学者、専門家らがメンバーとなった。和田氏以外のメンバーは以下の通りである(敬称略)。
小此木政夫(慶応大学名誉教授)
小牧輝夫(大阪経済法科大学客員教授)
木宮正史(東京大学教授)
美根慶樹(元外務省日朝交渉大使)
平井久志(立命館大学客員教授)
布袋敏博(早稲田大学教授)
竹中一雄(元国民経済研究協会会長)
吉田進(元日商岩井専務取締役)
西野純也(慶応義塾大法学部准教授)
学者、外交官、ジャーナリスト、ビジネスマンと、ほとんどがそれぞれの分野で確固たる実績を残してきた人物である。こうした日本側の代表が北朝鮮を訪問して、国交正常化の旗印の下に、友好や交流を深めようとする活動自体は、非難されるべきものではない。しかしその顔ぶれの一部の人たちの過去から現在までの言動、さらには北朝鮮訪問の時期、相手側による接待の実態などを見ると、とても手放しで礼賛するわけにはいかない。ある種の疑惑すらも浮かんでくるのである。
まずこの訪朝団の母体となった日朝国交促進国民協会だが、北朝鮮との緊密な絆を長年誇り、長い期間、北朝鮮工作員による日本人拉致という北側の国家犯罪に明らかに目をつぶり、口を閉ざし、日本が北朝鮮と国交を樹立することを最優先して求めてきた組織である。拉致解決よりもまずは国交樹立を、というスタンスなのだ。