北朝鮮の金正恩第1書記が公式の場から40日も姿を消し、様々な憶測を呼んだ。その後、10月3日には科学者らの集合住宅を視察する姿が報道されたが、彼の健康状態や権力掌握度をめぐって各国の北朝鮮ウォッチャーの間で議論がまた一段と活発になっている。
そんな中、米国の専門家たちの間では、金正恩書記が失脚した後の「金政権後の北朝鮮」を論じる向きも多い。今回はその一例を紹介しよう。米国の国防総省の長官室で北朝鮮問題を担当してきた気鋭の研究者の報告である。
米国でのこうした議論の背後には、いまの金政権が崩壊、あるいは失脚する可能性を現実の政策の視野に入れておくべきだとする考えがある。日本では、金正恩政権は揺るがないとする見方が強い。しかし、北朝鮮の政情に「絶対」はないということは、張成沢氏の粛清でも裏づけられている。
現実的に金正恩の失脚後を見据えるべき
ワシントンの有力シンクタンク「新アメリカ安全保障センター」の研究員で朝鮮半島情勢の専門家、バン・ジャクソン氏は10月17日、「金政権後の北朝鮮での武力衝突を防ぐ」と題する論文を発表した。
ジャクソン氏は2009年から2014年春まで国防総省で長官直轄部門の朝鮮部長やアジア太平洋戦略顧問などを務めた。オバマ政権の国防総省の対朝鮮半島安保政策に最近まで深く関わっていた人物だけに、その見解発表はアジアや朝鮮半島の安全保障政策に関わるワシントンの関係者たちの間で注目を集めた。
ジャクソン論文が話題となる理由の1つは、金正恩政権が安定しておらず、倒れる危険性が現実にあるという前提を打ち出しているからである。